5月 クラスの皆は意外といい奴

第7話 《主人公》に《ヒロイン》たち、苦笑しないで止めなさいっ!

「既編成されたお前たちの小隊へ加入?」


 ある日の授業すべて終わったころ。

 クラスメート全員が、俺とその隣を座席とするトリスクトさんを囲んだ。


『俺たちは小隊を組んでもう二年以上になる。二人にはそれぞれ、既編成小隊に加入し、協力してもらう形の方がいいと思ったんだ』


 話は、編成された小隊への加入について。


 提案を見せてくれた、黒髪の精悍な顔立ちしたコイツは刀坂鉄とうさかくろがねという、凛々しさと誠実さ際立つ男子生徒。


 どうでもいい。俺の中での通称は《主人公》で十分。

 イケメン、良い奴。主人公と言って言いすぎじゃない。


『編入したばかりだから、二人とも小隊として行動するのに馴染み薄いだろうし。その方が学院でもいろいろ行動しやすいはずよ』


 通称は《ヒロイン》。

 石楠灯理しゃくなあかりという名の、栗毛でツインテール。少しキツめな面立ちだが、きめ細かい白い肌の美人さんがこれに続いた。


『一応俺たち話し合ってさ。二人が構わないなら、さっそくフランベルジュ教官に報告するつもりだ』


(小隊編成ねぇ。良いんじゃない? よしなにやってくれちゃって)


 主人公たちからの提案。願ったりかなったり……というわけでもないが、さして断る理由もない。


 異世界からの脅威を討滅する魔装士官として、作戦活動は小隊活動が基本となるのは聞いていた。

 訓練生の頃から、その形に慣れさせるのが目的だそうよ。


(《主人公》や《ヒロイン》に始まり、他のクラスメートたちも、二人ずつで各小隊に分かれてるみたいだね)


 ほぼひと月前。新学期が明け、三年時に編入された俺からしてみたら、その方が気が楽。


(後輩含めた一小隊。三年生は隊に大体二人。俺とトリスクトさんで小隊組める三年二人になるが、実力的に彼女が小隊長になるとして、次点が俺って……)


 小隊を新たに作って手探り運用するより、既存編成小隊に加わって適当に指示もらって動く方が面倒事も少なくて済む……はず?。


(うん、面倒くさい)


『加入先だが、一応僕たちの小隊と、刀坂の小隊にそれぞれ加入してもらおうと考えている』

『ハイ。ルーリィさんが刀坂小隊。山本さんは壬生狼小隊。壬生狼さん、新メンバーが緊張しないよう、どうすべきかずっと考えていらして。居心地はきっと……』

『ゴホンゲホン! そ、そういうこと。サラッと言わないでもらおうか富緒君くん』


 具体案を提示し、すぐさま恥ずかしそうに激高したコイツは《政治家》。壬生狼正太郎みぶろしょうたろうという超成績優秀眼鏡君。

 普段は冷静を地で行く厳格さを見せながら、ちょっとでも想定から外れると、すぐに弱くなるタイプの奴だった。


『良いじゃないですか。新メンバーを快く迎えようという気持ちは、いっそ前面に……』

『わぁぁぁぁ! やめてくれ! 頼む!』


 語尾によく「たまえ」を付けて、女子にも君付けで呼ぶから、どんだけ偉ぶるんだよって思ってたが、意外と可愛げがあったりする。


 これを振り回しているのが、禍津富緒まがつとみお。通称は《委員長》。

 お下げ髪、丸メガネの優等生女子で、いわゆる天然ナチュラル


 実際に委員長というのもあってつけたあだ名だが、《巨乳アイドル》とつけそうになるくらいにスタイルがよかった。

 

 フッ。座学において、《政治家》とクラス一位どころか、学年一位を競い合うほどの優等生にして、高校生らしからぬ落ち着きを見せる彼女。

 実は丸メガネを外して、おさげの纏めをほどいて髪を下したなら、グラビアアイドルにも引けを取らぬほどの美少女であると、気付いているのだよ。


 時々ムフフな隙を見せちゃうような子で、間違いなく好きになっちゃう女子だった。

 ……時折、すでに《ヒロイン》とデキてるに違いない、《主人公》に好意をにおわせる場面さえなければな(残念っ!)。


(《政治家・委員長》小隊か。いや、二人ともいい奴ではあるんだけど)


 さすがに俺とトリスクトさん以外、同じクラスメートとして、同じ小隊員として、三年目を迎えたであろう彼らみな、人間関係は良好。

 今日までに、小隊内の空気感というやつもしっかり完成していたようだった。


(筆記試験学年ツートップに挟まれる。定期テストごとの心労は多分やばい。といって《主人公・ヒロイン》小隊についちゃ、二人はどう見てもデキてる。気まずい)


 そこに新たに加わるとなると、適応しなきゃならないわけでぇ。それはそれで気まずくてならなそうだった。


『灯里が弓で後方支援。刀の俺と、槍のトリスクトで前衛アタッカーは二枚』

『僕たちは、僕がショットガン。富緒君が呪術杖と遠距離重視。編入時に大戦斧の適性を受けた大柄な君が前に立ってもらえると、前方への圧力は増すんじゃないかと』


(さぁて、どうすっぺ? 《主人公》も《政治家》からの説明にも無理はないが)


 あ、そういえば。武器についてね。

 異世界から転召される脅威を排除するために、学生一人一人、経験の有無や適性、体格なんかで、使うにふさわしいタイプの武器を推奨される。

 まぁまぁガタイがよくて、まぁまぁ背が高い俺は、大戦斧を推奨された。


 思っちゃうよねぇ。ってことは俺、雑魚じゃん。

 大体オークとか、盗賊とかって漫画開いて二コマ目で瞬殺される奴が、使ってるような獲物を推奨されぶっちゃけ複雑だった。


「申し出感謝する。すまない。それでも私は、一徹と新たに小隊を編成したいと思っている」

「んがぁっ!?」


 悩む猶予。そんなものなかった。

 提案やいろんな話、これまで腕を組み、目を閉じて静聴していたトリスクトさんが、ここで口を開いた。


「今年は、全国各地に魔装士官学院が開校してちょうど5年目。新たな試みとして他校との交流行事が開かれると聞いている。だがその催しは……」

「競技会としての意味合いが強い……か?」

「その通りだよ一徹」


 何となく、トリスクトさんの発言の意図は伺えた。

 何度か授業前のホームルームでシャリエールが告知していたのを覚えている。


 確か交流行事に合わせ、それまでの間に小隊内、小隊間の連携を強化するようにという事。

 ただ仲良くするだけなら、そんな必要はない。


 日々の訓練成果の発揮と、技術の一層の向上を目的とし、他校の訓練生と競わせ、互いに高めあうことを目的としているのだろう。


「だから小隊を一つ増やすことを提案する」


(えーっと、でもですね。その流れっつーのは……)


「皆は今期で三年目。卒業された上級生から受け継ぎ、最上級生となった今、下級生に伝えたことも多いはず。そうして小隊毎に合った連携、戦略も完成してるはず」

「新たに隊員が増えたとして、それら完成したものが崩れない保証はない。仮に綺麗にその小隊らしさ・・・に俺たちを適応させられたとして時間がかかる」

「それに、小隊というのは三年生だけのものじゃない。最上級生が小隊の幹部。下級生たちを部下とし、彼らの指導も行う必要がある」


(どっちもどっちで面倒かよ! っていうかやっぱり新規小隊編成の方が大変じゃん!?)


「俺、魔装士官訓練生として、後輩の面倒見たことがないんだけど」

「大丈夫さ。君には、私のサポートがある」


 どっちをとっても苦労が見える。

 だけど彼女が能動的に回答してくれちゃったおかげで、話は新規小隊編成に傾きそうだった。

 じゃあそうならないよう、その二案以外出せる代替案があるかっていうと……んなもんね、もちろんないのだよ。


「って……ん? 『私のサポートがある』って……」

「ちゃんと副官として、君を支える。大丈夫」


 え? なんて仰りやがった?

 キッと、使命感をたたえた意思の強い瞳が見定めてきた。なんか言っていた。


「小隊長の一徹には……私がいる」

「小隊……長? 俺がぁっ!?」


 声を張り上げた瞬間だ。クラスメートたちがざわついた。


 お前たちの言いたいこと、よーくわかる。「え? 山本が?」ってやつだろ?

 それ俺のセリフだっての。


『鉄、これって……』

『う、うーん。すでに二人が新規小隊を編成するって心に決めて、その中で決定された小隊長人事なら、他小隊の俺達が口を挟むことはできないけど……』

『大規模な部隊であれば、優秀な副官の存在が絶対必要というのはわかるが、小規模レベルなら……』

『普通、一番秀でている者が頭にすげられるべきだと思いますが。ルーリィさんには、何かお考えがあるのかもしれません』


 おい、面白いな。何かの冗談か《主人公》。どこをどう見たら、今の流れで俺も含めて新規編成を心に決めたとか思っちゃった?


 《ヒロイン》も《政治家》も勝手に驚いてるんじゃねぇ。《委員長》は期待を込めた笑顔でお手てとお手てを合わせない。


「私じゃ、不足だろうか一徹?」

「ぬっ!」


 隣に坐したトリスクトさんが、ふいに手の甲に掌を重ねた。不安げな目で見つめてきたから驚き。


 思わず生唾を飲み込んで、何とか喉元で抑え込んでいた、彼女や皆にぶち上げたい文句も、そのまま再び飲み下してしまった。


『ルーリィ。見せつけてくれるじゃない。私も、もう少し積極的に鉄に対して行動を見せられたなら……』

『え? 灯理、何か言ったか?』

『……朴念仁も大概にしなさいよ。貴方も、山本も』


 ……あの、勝手に乗って勝手に突っ込むとか、やめてもらえないかな《ヒロイン》さん。

 よくわからんが《主人公》。お前はお前で、自分の話の始末はきっちりつけてくれ。

 わからんが、なんか俺貰い事故みたいになってる。。


「えっと……」


 と、この話は、まだ終わらなかった。

 回答を済ませていないから、不安げなトリスクトさんの瞳は、いまだ俺をとらえていた。


「俺は……」


 回答をしなきゃならない。

 別に新規小隊編成でも構わない。ただ隊長職に絶賛不安中ってだけ。もし、トリスクトさんが小隊長を務めるというならやぶさかではない。


(責任感強そうで真面目。トリスクトさんの方が隊長にふさわしいと思ってるからであって。別に嫌でなすり付けようとか思ってるわけじゃないんだからね) 


 気に障らないよう、慎重に言葉は選ばなきゃならない。


『賛同しかねる!』

 

 その矢先だ。

 張りあがったひとつの声と同時。教室の引き戸が思いっきり開けられた。


『今の提案、物言いをさせてもらう』


 まさかだ。この話はあくまでクラスメートたちとかわしていたもの。

 却下したのは……


『トリスクトさん。君はすでにこの御剣が声を掛けていたはずだが』

「……誰ぇ?」


 ごめん。わかんない。

 とりあえず見覚えのない、クラスメートじゃない男子学生が憤慨なさっておりました。。

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