今は昔の物語③
どれくらいの時間がたったのだろうか。
まるで夢でも見ていたかのようだ。
気がつけばそこに老人はおらず、見返しても空にあの街はみえない。
(さっきのはいったい何だったんだ)
気を取り直して歩き出そうとすると例の老人がいた場所に何かが落ちているのを見つけた。
「数え石……?」
見覚えのある十色の数え石とは違う。すべての色が合わさっているかのような不思議なグラデーションで三十の石が連なっている。
そっと手に取ると石が僅かに発光し、グラデーションが灰色から青色への単調なものに変わった。
(これはいったい……?)
不可思議なことが続くとそこに何かしらの意図があるように思えてならない。
ボクはその数え石を携えていくことにした。
(灰色のひとつ目。これを今日からの始点にしよう)
数え石は高価なものだ。あまり人目に触れないほうがいいだろう。直径1センチほどある三十の数え石はそこそこ長さもあるので、ボクは首にかけて衣服で隠れるようにした。そうして数えが分からなくならないようにひとつ目の石と次の石の間に赤い紐を結んだ。この紐を一日ごとにずらしていく。
(よし。これで大丈夫だろう)
確固たる目的地が決まっているわけではない。
視慣れぬ街並みと摩訶不思議な数え石。
何かに導かれるようにボクはあの街が視えた方角へ歩を進める。
(何があるのかはわからないけど、なんだかいいことがありそうな気がする)
_________________________________
「いいことなんてそうそうないよな……」
眼前に広がるのは荒野。振り返っても荒野。
集落どころか人ひとり、動物一匹見かけてはいない。
あの日、あの数え石を手にしてから十日間。ただの一度も、だ。
(食料の備蓄も後僅か。いい加減どうにかしないとヤバいな)
悩みはするが立ち止まってはいられない。
間もなくこの灰色の空も日没に向かう。
太陽の出ないこの世界では当然月も星も出はしない。あるのは暗闇のみ。
「そもそも星月なんて本当に存在するのかさえ怪しい」
太陽はまだわかる。朝になれば明るくなるのだからこの分厚い灰色の雲の向こうにあるのだろう。しかし夜に光は皆無。おとぎ話に出てくるような煌めく星々なんて想像もつかない。結局は夢物語なのではないだろうか、と本気で思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます