第2話 峰子
その女性は
これは特筆に値する装いで、決して尋常な話ではない。
まずパンツルック――ズボンの着用は男装と同意義な時代だ。……それも全世界標準で。
念入りなことに女性はズボン着用禁止の条例すら散見できる。なんとフランス――西側の国などでもだ。
さらに女性用スーツの定番にして金字塔、シャネル・スーツが発表されるのも一九五四年――まだ五年も待たねばならなかった。
つまり、非常に珍しい女性スーツであり、基本的に男装と認識されるパンツスーツは――
キッレキレな最先端のモードであり、新しい時代と戦う女性の体現
といっても過言ではない。
が、そんな女闘士は、まだ発明されて数年なトートバックを肩へ掛け、小脇で平たくて嵩張る木箱と……まるで特売帰りの主婦が如くだった。……もしくはデスマーチ真っただ中なOLか。
慌てて三人も手伝うべく、腰を浮かす。
「あーっ! 重かったぁ! ……欲張らないで二回に分けて運べば良かったわね。失敗、失敗」
そう笑いながら手の平で顔を扇ぐ様子は、とても名門・
「
なぜか
……まだだッ! まだ自摸っちゃいないッ! まだツーアウトのはずッ!
ボクっ娘で宝塚が好きで、男装めいた令嬢にハスハスと鼻の下を伸ばしていてもッ!
まだ
それにしても謎に
……どうしてだろう? すごく不思議だ。
「そう? じゃあ、今度から
「うん! ボクなら、いつでもいいから!」
尻尾があったら激しく振りそうなほど
その証拠に無言で見守る
敢えて二人の心中を言語化すれば――
「
「これが世に聞く『京あしらい』や『
であろうか?
いずれにせよ
さらには追撃とばかり都合よくお腹の虫が鳴ったりして――
「あははっ! 続きは食べながら! そういえば御夕飯を頂いてなかったんだ!」
と微妙となりかけた空気をも吹き飛ばす。……若年ながら凄い業前!
「この前に上京した時、少しだけど良い茶葉が……はい、お茶ね」
説明しながらポットペリカン――昨年に操業再開された象印の魔法瓶を取り出す。
「……これ新品でありますか?」
「うへぇ……もう工場再開したのかぁ……象印は凄いなぁ……」
「あと
しかし、言い終わるのを待たず
「……これが
不思議なことに
「なに、これ?
「長いから兵隊さん用でありますよ、きっと」
あまり詳しくない
「これは大戦末期にナチスの開発した新兵器――
と
が、当の二人は全く無感動に首を捻るばかりだ。
しかし、公平に考えて二人の反応の方が一般的といえただろう。
まず、この時点で世界に
なぜなら唯一無二のオリジンだから。
他の国では
そして同時に究極の一つともいえた。
この
また、自身も未だ最前線で運用されているのだから、世界最初の万能銃――それ一丁で全ての用が足りる究極のうち一つとの評も、決して過言ではない。
が――
「ボク、長物は好きじゃないんだよなぁ……これがあれば十分じゃない?」
と
それはドイツの量産した軍用ピストルで、終戦時であれば優秀だし一線級といえる。悪くない選択だ。
「それは拳銃でしょうが!
もちろん
しかし、黙っていてもしょうがないと判断したのか
「も、もちろん
と藪蛇をつつく。
「だぁーっ! 半自動は一回引き金を引いたら一発弾が出る! 全自動は引いてる間、連射し続けるのよ!」
「……それは
「
まるで漫才となってしまったが……実は
世界中の兵隊が一回引き金を引いたら一発しか弾は出ないと考えているし、全自動小銃という
それ一丁で拳銃と小銃、軽機関銃、中距離までなら狙撃銃も兼ねれるのだから、もはや汎用兵器と呼んでも差し支えない。これさえ使えれば一人前とすらいえる。
さらに少人数なチームでは、道具で埋められる点は埋めてしまうべきだった。
しかし――
「自分に難しいのは無理であります。なので、この兵隊さん用は
と判っていない
「だ、ダメ! この子はダメ! っていうか私物だから! それに信じられないぐらい高いんだから!」
「え? それ良くある三十八口径リボルバーじゃ?」
愛銃を抱き寄せて、珍しく狼狽する
「これは.357マグナムっていう強装弾も発射できる優れものなのよ。でも、本当に実物がなくて……さる旧家のガンコレクターに大金積んで、やっと譲ってもらったんだから」
と語った
ようするに現代でいうところのコンバットマグナムなのだが、その発売は六年後の一九五五年。まだ存在すらしていない。
よって
正規ルートの使えない
ひょっとしたら
そして――
「えっと……その……
と
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