28.妄想

僕の鼓動はすべての音に掻き消され 刹那にして居ても居なくても同じになる

そのことは世界が正しく廻っている証拠である筈なのに 僕は僕の鼓動が止むまで居ることに拘ろうとする


「居る」が「居た」に変わることを僕は知っている

「居た」が「居る」にならないことを僕は心得ている


すべての音は僕の鼓動など飲み込み それでいてその中に僕は入れずにいる

そのことから察するに 世界の正しさに対し僕という存在は不純で 且つ手足纏いなのかも知れない


「居る」者が「居た」者に口出し出来ないように

「居た」人は「居る」人に指図出来ないことになっている


「誰の鼓動も人知れずすべての音の餌食となり 実は皆どうすればよいか分かっていないのである――」

そんな妄想に一頻り取り憑かれたのち 僕は達磨となって野っぱらを転げ出した

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