11.一人の星

流した涙の分だけ心は軽くなったと思っていたのに なぜかいつまでも前を向けなかった

代わりに振り返ったのは 生えてこない羽が疼いたような気がしたから

何を持って生まれるかは 何になって生まれるかに依ると

誰かが言っていたことを思い出したその夜は なぜか中中眠りに就けなかった


次の朝 虚構と現実が 示し合わせたように心から居なくなった

お蔭で心は空っぽに 間もなくそこに星を鏤めたように穴がいくつも・・・

静観している場合などではなくなって 楽観したかったことなど忘れてしまった

いつか術として身につけた「途方に暮れる」を実践しようとしたまさにその時

駄目になったと思っていた心に「世界」が充ち そこはまるで星となった

その日 虚構と現実は 心の一部になるべくそこから居なくなった


流した涙は返ってこない 虚構も現実も戻ってこない だからもう待つことはない

鎮めようとした芽生えたばかりの感情と決別すべく こうして火を焚いた

それが眼の奥に焼き付くまで見つめたのは 人として生まれ 己として生きたから

火はいずれその現象を終えるが その時にはもう 既にそこを立ち去っていることだろう

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