一月二十二日 ~#らののべる~
一月二十二日。
凸待ち配信を終えた翌日。私は悩んでいた。
「おめでとう」と「ありがとう」を自分の言葉で伝える機会を与えてくれた彼女に、改めて祝福と感謝の気持ちを伝えたい。
せっかく誕生日だったのだから、何かプレゼントとしてあげられるものはないかと考えていると、ふと思い出したことがあった。
本山らののツイートを遡って目的のつぶやきを見つける。
そこに書かれていたのは「ほしいものリスト」。彼女が欲しいと思っているものだ。
彼女が望むものをあげられればこの気持ちも届くのではないか。そう思い、リストに書かれているものを一つひとつ確認していく。
ブログ記事。
ブログはやったことないし、人に読んでもらえるほどの文章を書ける自信もないため、却下。
ファンアート。
絵は描けませんので。却下。
そうなると残されたのは一つ。
ファンノベル。
私は意を決し、パソコンのデスクトップにあったファイルを開く。
ファイル名は「aaa.txt」。
名前の適当さも然ることながら、ゴミ箱に入れる手間すら惜しまれてデスクトップに残り続けていたそれは、私が生まれて初めて書こうとした物語だった。
書こうとした、というのは、最後まで書ききることができず、完成に至らなかったからである。
もともと夏頃に行われた本山川小説大賞の企画に向けて書き始めた物語だったが、どうにも自信が持てずに途中で諦めてしまった。
今にして思えば、これがデスクトップに残っていなければ、私のファンノベル執筆活動は始まらなかっただろう。
私はそのファイルの中身を一読して、頭の中で色々と考えてから、ごっそりと半分ほど消した。
そして改めて、今度はちゃんと物語を終わらせるために書き始める。
初めての執筆活動。話の書き方もお約束事も分からない。
気持ちという名の材料を、レシピも調理器具もなしに素手でこねていくようなものだった。
そもそもファンノベルと呼ばれているものをよく知らないし、書いているものがファンノベルと呼べるのかすら分からなかった。
それでも書きたい、気持ちを届けたい。その一心で完成を目指した。
そうして三日ほどかけて書き直し出来上がった物語は、語り手の名前はおろか性別すら明記されていないような、読み手にとってはなんとも感情移入のしづらいものとなった。
それでも一つの物語を書き終えて満足した私は、本山川大賞に参加するためにユーザー登録をしていたカクヨムのサイトを開き、書き上げた文章を貼り付ける。
最後にタグやキャッチコピーなどを設定して、はじめてのファンノベル『ライトノベルはお好きですか?』を投稿した。
画面が切り替わり「シェアして公開をお知らせする」と表示されるが、まずは本山らのに読んでほしかった。これは彼女のために書いた物語なのだ。彼女にさえ読んでもらえれば、それでいい。
ファンノベルを投稿したことを本山らのに連絡をする。
タイミングが良かったのか、読んだという返事は直ぐに来た。
パソコンの前に無表情で座っていた私は、しかし心の中ではふかふかのベットの上でぽよんぽよんと跳ねまくっていた。
初めて書いた話を読んでもらえた。
感想ももらえた。
どうしようもないくらいに嬉しかった。
これが、彼女が私に教えてくれた、新たな"楽しい”だった。
初めは誕生日プレゼントとして一つ書ければいいと思っていたが、読んでもらえたということが想像以上に嬉しくて、その後も彼女のファンノベルを書いた。
ときには他のVtuberさんが一緒に出てくるような話だったり、ときには彼女の名前すら出てこないようなものだったり。
自分が面白いと思う話を自分で書いて、彼女にも読んでもらう。本当に楽しい時間が続いた。
しかし、そうしてファンノベルを書いていく中で、思い悩むことがあった。
その内容は近況ノートに書いているためここでは割愛するが、自分の中にある汚い感情に気づき、それでもファンノベルを書き続けていた。今ではあほじゃんって笑って言えるようになったけど、当時は結構悩んでいたのを覚えている。
そしてその近況ノートに対して投稿されたコメントを見て、私は悩みが吹っ切れてそれまで通りにファンノベルを書くことができるようになった。
結局、私は誰かに認めて欲しかったんだと思う。「それでも書いていい」って。
コメントをくれた彼にはありがとう、と改めて言いたい。
そういったこともあったが、今では楽しくファンノベルを書かせてもらっている。読んでくれたファンの方々が楽しめるように、また、本山らのを知らない人が、彼女を知るきっかけになれたらいいな、などと思いながら。
動画やつぶやきなどの言動を基に、こんなことを言いそうだなとあれこれ想像をしながら文字を打ち込んでいく時間は本当に楽しくて、ここ一ヶ月は本を読む時間よりもファンノベルを書いている時間の方が多かったかもしれない。
これからも許される限り、そして迷惑をかけないように気をつけながら、ファンノベルを書き続けていきたいと思う。
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