第4話
防犯カメラの解析などによって、ひとりの男が浮かび上がった。
その男は、犯行のあった駅から二つ目の駅にある風俗店の店員であった。
小山田がその男の確認と周辺捜査の担当になった。
相棒の警視庁のキャリア君は、黙って小山田のあとを付いてきた。
まず、小山田は店の前での張り込みをした。その男が店に入るのは午後4時すぎだった。いつも黒いキャップを目深にかぶり、俯き加減に歩いてくる。ヤサからの尾行班の連中も合流した。
男は、いわゆるイメージサロンという風俗に勤めていた。飲食を伴わない、性サービスする店だ。風俗店として登録されているので、非合法ではない。
経営者もやくざなどではなく、一般人だ。
所轄の生活安全課の調べでは、やくざの影はなさそうだ。すでに、別の班が経営者に接触して、男の素情はある程度分かっている。
男の名前は、溝内やすし、32歳。前科なし。独身。店に勤めて2年。素行に歪な部分はなく、真面目に勤務しているという。
出身は山形県。高校を卒業して、千葉県の工場に勤めたが、長く続かず、職業を転々としているということだけが分かっていた。
小山田たちは3日間彼を観察し、行動パターンを把握した。後は、任意同行をかけて、自白まで持っていくだけだが、同時に家宅捜索をかけて、凶器などの物証を確保しなければ立件できない。防犯カメラの映像だけでは証拠にならない。
被疑者溝川の任意同行は小山田たちがマークし始めてから4日後に行われた。
溝川は素直だった。署に連れていこうとするのに抵抗するわけでもなく、取調室に入っても挙動不審にはならなかった。
だが、犯行については強く否定したのだ。
「僕は、何もしていません。そんな男の人は知りませんし、その日は牛丼を食べようかと思って前を通りましたが、となりのカレー屋に入ったのですから」
家宅捜索でも、犯行に結びつく物証は出なかった。だがそれはある程度予想できたことだった。人を殺した凶器は言い逃れできない最大の物証であるから、早々に始末するのが普通だからだ。だから、取調べで凶器をどこに捨てたのかということを吐かさなければならない。
重大事案であるから、本庁から取り調べのプロ中のプロが参加して、朝から夜遅くまで溝川を締め上げた。
この事件が何らかの情が絡んでいたものならば被疑者を自白に追い込むことは容易なのだが、通り魔といういわば無差別殺人だから、犯人と被害者はないのだから、動機を追及できない。むしろ、心理学的に彼の動機を探さなければならない。
犯行現場近く、被疑者の家周辺、通勤経路など百人の警察官を動員して凶器の捜索をしたのだが見つからなかった。
また、犯人と被害者の男性の接点も分からない。
店に来ていた客ならば、店の防犯カメラに映っているはずだがそれもない。店の女の子たちに聞いても被疑者を知る子はいなかった。
捜査は完全に行き詰っていた。
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