第26.5話 レイの焦り

 レイは今までにない焦りを感じていた。


 レイはその圧倒的な才能で同世代の相手に負けたことがなかった。そのため今までの全試合において近接による攻撃しかなく、相手の棄権によって勝ち上がってきたエクスなんてレイにとっては楽勝の相手と思っていたのだ。


 しかし、蓋を開けてみれば、レイの攻撃は一切効かないどころかエクスの攻撃を間近で体験してその危険性を理解した。あの攻撃には当たってはならないと、そう本能が告げていた。


 そのため、大きく隙を見せるような行動は出来ずにいた。


 隙が少なく、素早く発動できる魔法を多用しながら少しずつエクスの体力を削って行こうと思っていたが、少しずつ疲れ始めているレイに対し、ほとんど息も切らすことなく向かってくるエクスの姿を見て、ここまま行けば、レイの魔力が先に尽き、負けることはわかった。


 今まで負けたことのないレイは負けを強く実感し始め、それがレイを焦らせていた。


 それがわかるとレイは負けるよりはマシと思い、ある作戦を思いつき、行動に移した。


 この時のレイは明らかに冷静さを欠いていた。


「ねぇ、このまま続けてもお互いに消耗するだけで決着はつかないんじゃない?だから、一つ賭けをしましょう?」


 エクスの攻撃を近く躱しながら、レイはエクスに疲れて始めていることを悟られないようにしながら、そう言った。


 その言葉を聞いたエクスは、レイの言うように決定打がないことを理解していたため、攻撃をやめ、レイの言葉に耳を傾けた。


「確かにな、それで賭けっていうのは?」


(食いついた!)


 レイは、エクスがこの話に乗ってきたことに喜んだ。しかし、ここで喜ぶ姿は見られるわけにいかず、必死に喜びを隠した。


「簡単なことよ。次、私は全力の魔法をあなたに向けて放つわ。それをあなたがその魔法を耐え切ることができれば、私はこの試合を棄権するわ」


 この提案はエクスにとっても嬉しいことだった。アシルたちから全力を出すなと言われているため手加減しながら、攻撃することは精神的に疲れるためだ。そのため、今までより強い魔法を耐えるだけでこの試合が終わると思えば、その提案に乗ることはエクスにとってもプラスであった。


「わかった」


 そう言うとエクスは、レイから距離を取った。


(ばかめ!これで私の勝ちだ!)


 レイはエクスが提案をのんだことで自分勝ちを確信した。


 そして、エクスの戦闘態勢が整ったことを確認するとレイは今自分が使える最大の魔法を発動させるために詠唱を始めた。

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