第5話 スキルと恩恵 2
魔法が絶対に使えないことはないんだから、今から凹んでいてもしょうがない。
そう思い、僕は事実から目を背けた。
「それとこの話もエクスにはしておいた方が良いな」
「うん?今度は何?」
「エクスの今後についてだ」
また、パパは真剣な表情になり、そう言った。
「今後?」
「そうだ。エクスは何かやりたいことはあるのか?」
「うーん」
急にそんなことを聞かれてもすぐには答えられない。あえて答えるなら、エシルよりも強くなりたいってことくらいだ。
「そうだよな。すぐには答えられないよな。でも答えられないなら、その方が良い」
「どういうこと?」
普通、何か夢を持っていた方が良いはずなのに、それはない方が良いという理由がわからなかった。
「エクスの場合、『経験値増加』という恩恵のせいで選択肢がないようなものだからな」
「どういうこと?」
僕は更に意味がわからなくなっていた。
「そうだな、じゃあ、エクスに質問だ。この国ではどんな人が偉くなると思う?」
「うーん……わからないよ」
「まあ、わからなくて当然だよな。簡単に言えば、スキルや恩恵を多く持っている人間が偉くなるんだよ、だから『経験値増加』を持ったエクスは偉くはなれないんだよ」
「うん」
パパの言っていることは理解できたが、それの何が重要なことなのかはわからなかった。別に偉くなりたいとは思ってない。
「それどころか『経験値増加』を持っているだけで仕事にも就くことが難しいんだよ」
「うん……え?『経験値増加』を持っているだけだよね?どういうこと?」
僕はパパの言っている意味がわからなかった。たった一つの恩恵を持っているだけでそんなことになるとは考えられなかった。
「簡単だよ。持っているスキルや恩恵がその人の価値を決めるんだよ。だからスキルを習得しにくくなる『経験値増加』を持っているだけでその人には価値がないようなものなんだよ。そんなことがあって『経験値増加』は恩恵と呼ばれているけど、実際には呪いって呼んだ方が正しいなんて言われている」
「うそ…」
僕はパパの話を聞いてようやく自分の置かれている状況を理解した。そりゃあ、パパもママも悲しむはずだ。だって『経験値増加』を持っているだけで将来がなくなったようなものだ。
「だからエクスにはこれからのことを考えて欲しいんだ。仕事に絶対に就けないわけじゃない。それに家の手伝いをずっとするでも良いんだ」
「わかった」
僕は口ではそう言ったが、内心は絶望していた。それはエシルの誇れる兄になれないからだ。家の手伝いをしているだけではエシルには誇れない。だからそれだけはしたくなかった。
自分のできる仕事、エシルに誇れるようなことを探すしかなかった。でもパパの話を聞く限りそれは難しそうだった。
一応、まだ時間はあるため、ひたすら体を鍛えることにした。それくらいしか今の僕にはできなかったからだ。
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