出会い 終
「カナエさんは、なぜこの仕事をしているんですか?」
何度も聞かれた質問だ。
国木田さんの口から聴きたくはなかったが、彼女だけに理想を描くのはやめよう。
「女の子が好きだからです」
国木田さんは何かを考えているのか顎に手を当て、固まっている。
何か変なことでも言っただろうか。しかし、これ以外に答えようがないのだ。
国木田さんは裸でどこから出したのかノートパソコンを開き何かを打ち込み始めた。
私はただその様子を見ていることしかできなかった。
声をかけることもできないほどの覇気が彼女の周りにまとわりついているのだ。
これに対処するにはただ時間を待つことしかできなかった。
国木田さんはブラインドタッチで打ち込み続ける。
部屋の中はパチパチという音しか聴こえない。
これが女二人、ベッドの上で裸でパソコンを打ち込むという光景は傍から見たら滑稽なのだろうか。裸族カップルなら普通かもしれない。
「よし……」
国木田さんのその一言が沈黙終了の合図だった。
「あの、国木田さん……?」
「カナエさんありがとう!」
彼女はそう言うと私の手を掴み頭を下げてきた。
「いや、あの……」
「これで明日投稿できる!」
「国木田さんは何をしている方なんですか?」
「作家……です。まだ食えてないんですけどね……」
ああ。なるほど。小説のアイディアに詰まっていたのか。
「お役に立てて光栄であります」
時計を見ると、終了十分前になっていた。
「国木田さん、そろそろお時間ですね。シャワーを浴びましょう」
「え、もうそんな時間!?」
「ええ」
「三十分延長……! あ、もうお金無いんだ……」
「また指名してくだされば……」
彼女は私の腰にしがみつくと泣き出した。
「うぅ……もっとカナエさんといたいよー……」
「いや、あの、お金のあるときに……」
「わかった! 今度、賞取ったら貴女をたくさん指名する! アタシに惚れるまで!」
さっきまで泣いていたと思ったら今度は元気に確実性の無いことを言い出した。
その勢いに私は負けた。
「ええ。お待ちしていますよ」
最後の数分は彼女の好きな作家や憧れの作家や初めて読んだ本の話を聞いていた。
彼女はとても笑顔で私はこの笑顔に惚れたのかもしれない。
その後、国木田アユムは小さいながらも賞を取り、私をまた指名した。
「国木田さん、私この仕事やめることにしたんです」
「え!? そんなアタシ、貴女に会うために!」
「また、どこかでお会いしましょうね」
私は国木田さんの部屋にある本の間に本名の『金田留梨子』と電話番号を書いた紙をこっそりと入れた。
仕事をやめれば客と恋愛禁止から解放される。
あとは国木田さんと私の運命次第だ。
しかし、その運命は三か月後にやってきた。
見知らぬ番号から連絡が会った。
「私、国木田アユムと申します。金田留梨子さんのお電話で間違いないでしょうか」
「はい。こちら金田留梨子のお電話です」
「よ、よかった……違う人にかけてたら二度と立ち直れなかったですよ」
国木田さんは私が用意した運命の鍵を見つけてくれたんだ。
「はは。まあ、私もあの時は無茶を言ったと思いますよ」
「えーと、早速なんですが……アタシ、賞を取りました」
「おめでとうございます!」
「賞金は三百万です」
「え、すご!」
思わず、素の声が出た。
「えーと……一年近く前に投稿したのが最終選考まで残ってて、それにかけてたんですが、まさか、本当に取れるとは思ってなくて」
「以前、書いてた作品も賞に出したんですか?」
「ええ。とにかく出して出して出しまくります」
「国木田さん……あの……今でも私のこと……」
「アユムが国木田さんだった頃が懐かしいねー。アユム」
「いや、アタシは今だって国木田さんだよ。アンタだって『カナエさん』だったじゃん。そんな前のこと思い出さなくったっていいじゃん。恥ずかしいな」
今の関係になるまで時間はかかったが、私たちは今の時間を手に入れた。
お互い一緒に居たいという思いが重なるまでの時間は長かったようであっという間だった。
私達はこれからも一緒に歩み続けたい。
こんなことアユムには言えないけどね。
了
ある百合書きの悩み シイカ @shiita
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