第47話 ラブコメ

ラブコメ小説を読んだら、幼馴染が欲しくなってしまった。

いや、前から欲しかったのだが、何冊かのラブコメ小説を読むと、幼馴染というのはもう定番だし、たまに幼馴染のいないラブコメなんかがあると、こんなのラブコメじゃない! というくらい幼馴染が欲しくなった。

「美旗」

「なにー」

「幼馴染になってくれ」

「んー、さくっちに怒られるからやだ」

理由それ!?

まあいい。

俺はもう一つのラブコメの定番を実践してみようと思う。

鈍感主人公が、ヒロインの嫉妬には全く気付かないのに、機嫌が悪くなっていることだけは瞬時に気付くというアレだ。

俺は美旗の背中をシャーペンでつつく。

ちょっと仲良さげにじゃれあえば、ヒロインである佐倉が不機嫌になるという寸法だ。

まあ佐倉の席は俺達より斜め前だから、振り向かないと気付かないかもだが。

つんつん。

つんつん。

「もー、モッチー、ブラつつかないでよ」

想定外の返しをしてきた!

即行で佐倉にも気付かれたし!

いつもはすっくと凛々しく立ち上がる佐倉が、今回は何故かゆらりと立ち上がる。

その姿は幽鬼じみて、鈍感主人公を貫く勇気が鈍りそうだ。

佐倉が俺の横に立つ。

座っている俺は、もちろん見上げる形になる。

「どうしたんだよ佐倉、なんかあったのか?」

俺は爽やかに主人公を演じた。

内心ガクブルではあったが。

「言わなきゃ判らないの?」

冷ややかだった。

確かラブコメだと、「別に何でもないわよ!」とか言ってプンスカするんだけどなぁ。

「何を怒ってんだよ?  帰りにいつもの店でパフェでも奢るから機嫌なおせよ」

いつもの店がどこにあるのか知らないが、俺はあくまでラブコメ主人公を貫く。

美旗が、「うわー、この人勇者だ」みたいな目で見てくるので、

「これはラブコメだ、異世界転生じゃねぇ」

と一喝したら、変人を見る目に変わった。

まあ気持ちは判る。

「あなた、ふざけてるの?」

佐倉はあまりにも冷ややかだった。

それは背筋が凍り付くほどで、悪ふざけも大概にしなければならないと、脳内で警告音が鳴り響いていた。

「俺に悪いところがあったなら謝るけどさ、どうしたのか言ってくれなきゃ判んないだろ?」

なんでこんなに鈍感なんだ?

自分で演じててムカついてきた。

「そう。判ったわ」

相手をしている方は、もっとムカついているだろう。

つーか、ラブコメヒロインすげーな。

俺だったら忍耐切れるわ。

「石田君、ちょっと来てくれるかしら」

何故に石田?

やはり生身の人間相手だと、テンプレ通りには話が進まない。

佐倉の剣呑な様子に怯えつつ、石田が俺達のところまで来てくれる。

「石田君、後ろから私のブラ、つついてくれる?」

「待ってくれ!」

俺は瞬速で止めた。

いくら石田が女性に興味が無いとは言え、佐倉は誰にも触らせたくない。

佐倉は勝ち誇ったように俺を見下ろす。

「こういうことよ」

「すみませんでした」

俺は素直に謝る。

ラブコメとは全く違うヒロインの対応に、俺は憔悴してしまった。

「ところで佐倉」

「何よ」

「もし俺が止めなかったらどうする気だった?」

「そんなの、あなた以外に触らせ──誰にも触らせるわけないでしょう!」

あ、ラブコメ来た。

「佐倉」

「何よ」

「俺の幼馴染になってくれ」

「……転生でもすることね」

つまり死ねと。

やっぱり佐倉は、とても冷ややかだった。



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