第28話 眠り姫
次の休み時間は保健室に向かった。
美旗と話をするなら10分休憩は短すぎるし、昼休みにした方がいい。
保健室は、静かな環境を必要とするためか、一般教室からは離れた場所にある。
保健の先生はやはりおらず、保健室は静まり返って、時計の音が聞こえそうなほどだった。
息をひそめ、足音を殺すように室内に入る。
カーテンの先のベッドには、佐倉のいつもより幼く見える寝顔があって、どうしてだか判らないけど俺は無性に嬉しくなった。
普段、佐倉の顔を真正面からまじまじと見ることは無い。
佐倉は綺麗だから、それは俺には難しいことなんだよ。
俺はベッド横に椅子を運んで、佐倉の寝顔を眺めた。
静かな寝息は、耳を澄ませていつまでも聞いていたいほどだった。
伏せられた長い睫毛は、眠っているお姫様みたい、なんて思った自分がおかしくて苦笑した。
胸の上で重ねられた手に、俺が貼った絆創膏が見えた。
左手の薬指。
偶然だろうけれど、佐倉の右手の指は、そこにある絆創膏を愛おしむように掴んでいた。
休み時間終了のチャイムが鳴った。
俺は席を立ちかけて、再び腰を下ろした。
一瞬、表情を険しくした佐倉の寝顔は、また安らかなものになった。
何故か俺は泣きそうになった。
誰かに認められたい、誰かに好かれたい、誰かに、こんな自分を愛してもらいたいと思っていた長い日々に、佐倉は終止符を打ってくれた。
誰よりも綺麗なお姫様は、こんな俺に応えてくれたのだ。
だから、佐倉が望む限り、俺はお前のそばにいる。
そう思って俺が微笑むと、お前の寝顔は朗らかになった。
いつの日か、起きている時に、その柔らかな笑顔を見せてくれることを俺は願った。
俺は、佐倉が好きなんだ。
俺は、佐倉の重ねられた手に、自分の手を重ねた。
時よ止まれ、と願うくらい、幸せなひとときだった。
もしかしたらお前も、夢の中でそんな風に思ってくれてるのだろうか。
いつもは眉間に皺が寄ってるのではないかと思うような険しい顔も、穏やかで、あどけなくて、ただただ愛しくなる。
お前はいったい、どんな夢を見ているのだろうか。
「もー、お腹いっぱい……」
「メシの夢かよっ!!」
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