第27話 美旗の思惑

試験前ということもあって、いつもより授業は静かだった。

俺は佐倉を保健室に残して教室に戻ってきた。

ここ数日、試験勉強のせいであまり寝てないから調子が悪いと言っていたけれど、たぶん睡眠不足なのは、金土日の三日間なんだろう。

俺と美旗のデート前、デート中、デート後……。

佐倉が納得したのかは判らないが、最後は安心したような顔をして、ひどく眠たげな様子を見せていた。

気持ちよく送り出してくれたのに、経緯はともかく裏切るような結果になってしまって申し訳ないと思う。

佐倉にしてみたら、『信じて送り出したブサメン彼氏が田舎の腐れビッチのほっぺたキスにドハマリしてアヘ顔ピースビデオレターを送ってくるなんて』といった気持ちだろう。

いや、さすがにそれは無いか。

俺はどこかで聞いた古いエロ漫画だかゲームだかのタイトルと、佐倉の感情を重ねてしまったことを反省した。

しかしまあ、どうして付き合ってくれてないのかなぁ。

本当に俺の、顔と財力の問題なんだろうか。

取り敢えず学力や体力など、自分で何とか出来る範囲は向上を試みるけれど、お金儲けして整形して、というわけにもいかないし……。


「モッチー、モッチーってば」

美旗に呼ばれて、既に授業が終わっていたことに気付く。

それにしても、コイツは何故こんなにもニマニマしているのか。

「上手くいった?」

「何の話だ?」

「さくっちとのことに決まってるじゃん」

「ああ、まあ治療は滞りなく──痛っ」

脳天にチョップを食らう。

「治療じゃなくて、アッチのほう」

「アッチってどっちだよ?」

「だからぁ、ツンデレさくっちがデレモードに入ったかってことじゃん」

ツンデレ? あれはデレと言えるのか?

「というか美旗、お前は、俺と佐倉がくっつけばいいと思ってるのか?」

ほっぺにキスしたのは、本当に純粋なお礼の気持ちだったのだろうか。

「私はモッチーの幸せを何より願ってるからね。モッチーが誰より私と付き合いたいならオッケーするよ?」

つまり、美旗から見て、俺と佐倉がくっつくことが俺にとって一番幸せってことか?

佐倉はともかく、俺も佐倉が好きなように見えるのだろうか?

なんて冷静に考えているようで、実は心臓バクバクである。

だって、俺が美旗に付き合いたいって言えば、今この瞬間にも俺に彼女が出来るってことだよね?

しかも可愛くて、愛想も良くて、純朴天然な田舎娘!

よっしゃ、リア充爆誕しろ!

どうだ、見たか、今まで散々俺を馬鹿にした者どもよ!!

って、そんな私怨の入った妄想はともかく、俺の気持ちは抜きにして、美旗の気持ちはどうなのか。

「どうして受け身なんだ?」

「うーん、受け身っていうか、私のモッチーに対する気持ちって、尊敬の方が強いんだよね」

「尊敬でほっぺにチューはいかんでしょ!?」

「そっかな? もし恋愛感情の方が強かったら、ベロチューしてたと思うよ?」

「おおbitch!」

あ、佐倉みたいな発音できた。

「びっち?」

ったく、この純朴天然ビッチ娘は!

「まあそれはいい。つまりは?」

「だからモッチーのことチョー好きなくせに不器用なさくっち見てると、応援したくなっちゃう」

なるほど。

自分は恋愛感情より尊敬が強いから、恋愛感情ダダ洩れな佐倉を見ているとくっつけたくなると。

いや、まだ足りん。

「その割には、応援と言うより煽ってなかったか?」

「嫉妬させたらくっつくかなぁ、って」

コイツ、純朴天然じゃなくて、案外策略家なのでは?

だが知るまい。

既に佐倉の気持ちを受け取っていながら、付き合うことが許されぬ事実を。

そしてついさっき、付き合ってくれと言った俺が玉砕したことを!

「美旗、聞いてくれ」

もはや俺は前のめりだ。

佐倉の気持ちは美旗にバレバレだし、というか対抗意識剥き出しで、もはや隠そうともしていない。

それに美旗のことは信用しているから、今さら事情を話したところで裏切りでは無いはずだ。

だから俺は、佐倉との経緯を美旗に話すことに──

「お前ら席に着け」

……授業が始まったので話せなかった。


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