第18話 母親
食卓は三人だ。
父親は出張とかで、しばらく帰ってこないらしい。
いつもは母親とよくしゃべる明梨が、今日はやけにおとなしく食事を終え、すぐさま自室に籠る。
さっきの駅でのやり取りが、今になって急に恥ずかしくなってきたんだろう。
だからといって、こちらから声を掛けにいくのも恥ずかしいし、それに、佐倉のことも気になる。
佐倉があんな心細そうな顔をするのは初めて見たから、変な不安は取り除いてやりたい。
って、なんか彼氏気取りなことを考えてしまうが、そもそも連絡先も知らないし、たぶん教えてもくれないだろうなぁ……。
「また悩んでるの?」
心配げな顔をして母親が訊ねてくる。
見方を変えれば団地妻である。
「ごめんね、母さんがそんな風に産んだばかりに……」
母親は項垂れてみせる。
見方を変えれば黄昏の団地妻、憂いの団地妻である。
いや、じゃなくて、そんな風ってなんだ!? ていうか、俺が考え事をしていたら顔のことなのは確定事項なのか!?
「でも、半分はお父さんのせいなんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
くっそウゼー!
なぜかこの歳になってアニメを見るようになり、どういうわけかツンデレにハマった母親のウザさといったらない。
見方を変えればツンデレ団地妻である。
需用あるのか?
まあ、子供の頃、本当に俺がイジメられたり真剣に悩んでいたときに、悲壮と慈愛が入り混じった顔で謝られたときの方が辛かったけど……。
「彼女が欲しくなっちゃったの?」
今度は憐憫の団地妻の顔で言う。
「いや、そりゃ欲しいけど」
「ごめんね」
「いや、だから何で謝るの!?」
「ふふふ」
今度は笑った!?
「最近の誠を見てるとね、母さん安心できるの」
何だかよく判らんが、基本的には明るい母親だ。
俺がネガティブ思考を持ちながらも、ある程度前向きなのは、母親の影響によるところが大きいかも知れない。
「昔は、誠を見てると不憫で不憫で、ああ、この子は魔法使いになるんだろうなぁ、って」
「うっせーよ!」
「でも、今の誠なら大丈夫かなって」
「どうして、そう思うんだよ」
「ちゃんと努力してるし、ちゃんと優しい子に育ってくれたし、あとはか……か、金かな?」
いま顔って言いかけただろ?
ていうかテヘペロ顔すんな。
「まあ、ちゃんと見てくれている人はどこかにいるし、誠は見られていたとしても恥ずかしい生き方はしてないってことよ」
「へいへい」
なんか照れ臭くなって、適当な返事で誤魔化す。
でも実際、母親はちゃんと俺のことを見てるし、明梨だってそうだ。
そして身内でない佐倉だって、多少、歪な形ではあるが見ていてくれた。
もしかしたら、美旗だってそうかも知れない。
俺の努力はともかく、俺は周りの人間に恵まれているのだろう。
そう思うと、もっと頑張ろうって気持ちになる。
「ま、私とお父さんが愛情注いだからね!」
……ドヤ顔ウザい。
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