第4話 格差

「まず大前提として、あたは彼女を作らない。それはいいわね?」

「いや待て。前提としてあるのはお前の好意じゃないのか?」

彼女になることを拒否されたばかりだから、再び信じられなくなってきてるが。

「私の好意が有る無しに関わらず、あなたは彼女を作ってはいけないの」

「なんでだよ」

「私が嫌だからよ」

「お前はお姫様かよ」

「そう思ってもらって構わないわ」

スゲー! カースト上位ってスゲー!

いや、そんなことで感心していたら、コイツとの話が進まない。

「俺は彼女を作らない。だけどお前が付き合ってくれるわけでもない。何故だ?」

「私が嫌だからよ」

「……」

俺は頭が痛くなってきた。

さも当然のような顔をしているこの女の鼻っ柱をへし折ってやりたい。

「補足すると、私とあなたじゃ釣り合わないわ」

鼻っ柱じゃなく、この女の首をへし折ってやりたくなってきた。

「好きだけど釣り合わないから付き合いたくありません、てか?」

「そうよ」

「それって我儘が過ぎるんじゃないか?」

「あなたの成績は学年で18位。運動神経もまずまず。この辺りは許容範囲よ。ただ、あなた庶民的な団地住まいよね?」

コイツ今さらっと団地住まいを差別した!

世の団地住まいの人達に謝れ!

団地妻が好きなお父さん達にも謝れ!

「私の家、300坪で10LDKなのよ」

「……」

何故か何も言い返せなくなる貧乏人の辛さよ。

「それに私、プライドがすごく高いの。あなたが彼氏だなんて、誰にも言えないわ」

何故か何も言い返せないブサメンの辛さよ。

判る、ああ判るさ。俺なんかと一緒に歩いてたら恥ずかしいもんな。

チックショー!

「ご理解いただけたかしら?」

「……はい。ただ、あの、周りに隠して付き合うとかも駄目なんでしょうか?」

なんで俺は敬語になってるんだろう。

ああそうか、本能的に上位の者には逆らえないってインプットされてるんだな。

「私の経歴に傷が付くじゃない。5年後、10年後に思い返したとき、私の初めての彼氏はあなたでしたって、若さ故の過ちとして受け入れ続けなきゃならないのよ」

過ちになるのは確定事項なんですね……。

「あのさ、そんな一緒に歩くのも恥ずかしいような男なら、他に彼女が出来ようが、どうでもよくない?」

「よ、よくないわよ!」

「佐倉と釣り合うような、もっといい男、見つけたらいいだろ」

「そんな簡単に変えられるような気持ちで、こんなこと頼めるわけないじゃない!」

激昂した佐倉が机をバンッと叩く。

俺はある意味、感動していた。

こんなに真正面からの好意を、俺は生まれてから一度も向けられたことは無かったから。

真正面からの、えらく歪んだ好意ではあるけど。

「判った」

俺は答えを出す。

「え? 判ってくれたの?」

「ああ。俺はお前が俺を好きでいる限り、他に彼女は作らない」

「ありがとう。嬉しいわ……って、他に?」

「俺はお前を彼女にしてみせる!」

「馬鹿なこと言わないでよ。私があなたを、その、すすす好きだからって、調子に乗らないで!」

「美由紀!」

「は、はいっ!」

「周りに人がいない時にはそう呼ぶ。いいな!」

俺はそう言い切って、返事も待たずに生徒会室を後にした。

「男らしい望月君も、すきぃ……」

引き返して、もう一度聞かせてくれと懇願したくなるセリフが聞こえてきたが、ぐっと堪えて前進する。

どうせ元から彼女なんて出来やしないのだから、好きになってくれた女の希望くらい叶えてやるさ。

ましてやあの佐倉だ。

学年トップ、いや、学園トップの美貌を持つ女に好かれたんだ。

このチャンス、絶対ものにしてやる!

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