第3話 ドッキリ?
取り敢えず、顔を真っ赤にしている佐倉が落ち着くのを待つ。
いや、俺の方こそ心臓がバクバクして落ち着いてなんかいられないのだが、目の前の頭のおかしな女性よりは冷静なはずだ。
状況は認識している。
そして俺がブサメンであることも忘れちゃいない。
何故なら、今のこの状況が、盛大なドッキリであることも俺は想定しているからだ。
ブサメンは常に危機意識を持って、リスクを最小限に抑える選択をしなければならない。
佐倉が俺を好きだって? ヒャッホゥ! なんて単純に思えるほど甘い人生送ってきちゃいない。
ブサメンとイケメンの差が、どれほど理不尽であることか!
それこそ、イケメンなら少しくらい悪いことしたって「無罪」でも、ブサメンだったら何もしなくても「有罪」になることすらある。
そんな世の中、そんな社会の中で生きてきたんだ。
何の苦労も知らないような、佐倉みたいなカーストのトップにいるようなヤツには騙されない!
「ごめんなさい。少し取り乱してしまったわ」
どうやら落ち着いたようだ。
というか、演技だよね? 騙されないよ?
「その、今日も教室の掃除してたから、ここに来るのが遅くなったんでしょう?」
「まあ、それもあるけど?」
「そういうとこ」
「は?」
「だからそういうとこ、好きになっちゃったんだもん……」
アカン、ナニコレ? クッソ可愛い! 騙される!
つーか騙されてもいい!
「も、物好きデスネ」
なんか発音がおかしい。
母国語に疑問を抱くレベルだ。
「だいたい、あなたがいけないのよ! 学校の雑用程度ならともかく、街でもお婆さんの荷物を持ってあげたりだとか、雨に濡れてる人に傘を渡したりとか、コンビニでは店員さんにありがとうございますとかいつも言ってるし、近所の人達にもきちんと挨拶するし、目立ったゴミは拾って帰っちゃうし、この間なんか、不良に絡まれてた中学生を助けて殴られてたじゃない!」
なんだコレ?
なんで評価されちゃってるの?
俺の善行なんて、下心ありまくりですよ?
そりゃ、やらない善よりやる偽善なんて言ったりもするけど、俺はただ、いいことしてりゃあ彼女が出来ちゃうかも、なんて夢想してただけで、それに、手伝って喜んでもらえば俺も嬉しいし、ありがとうって言えば、言う方も言われた方も気持ちいいんだよ?
だから、評価されるようなことじゃなくて、俺はただずっと──あれ? なんか泣けてきた。
「理由、もう判ったわよね?」
さっきはクッソ可愛かったのに、もう普段の冷徹な顔に戻っている。
「い、一応は理解したけど……」
「じゃあ、あなたは彼女を作らない。そういうことで」
「ちょ、ちょっと待て、どっかオカシイ!」
「おかしくないわよ。おかしいのはあなたのか──なんでもないわ」
「おいおいおいおい、いま俺の顔がおかしいって言い掛けただろ! やっぱり俺を騙すつもりだな!」
「騙す?」
「どっかにカメラでも仕掛けてんじゃないのか? 後で皆で見て笑いものにするつもりだろう!」
「ひどいこと言うのね……」
いや、最初にひどいこと言い掛けたのはアナタですよ?
「私が、そんな下衆なことすると思うの?」
「あ、そりゃ、佐倉がそんなことするとは思えないけど……でも、それ以上に俺が佐倉に好かれるとか有り得ないっていうか」
「さっきの理由だけじゃ、信じられない?」
正直なところ、信じざるを得ないと思っている。
だって、さっきのって、もはやストーカーしてますって情報だし……。
「その顔は……信じてくれてるみたいね」
「まあ」
「じゃ、帰っていいわよ」
犬を追い払うように右手を振る。
シッシッてか? やっぱおかしい。
「あのさぁ」
「まだ何かあるの?」
「彼女作るなって言うけどさ」
「ええ」
「佐倉が彼女になってくれれば済む話なんじゃねーの?」
「嫌よ」
ええぇぇぇっっ!!?
彼女を信じて、人生最大とも言える自惚れじみた発言が、今まさに木端微塵に!
なーにが「佐倉が彼女になってくれれば済む話なんじゃねーの?」だ、鏡見ろ! ブサメンの言うセリフじゃねーだろっつーの。
あー、穴があったら入りたいわー。
「まだお互いの認識に齟齬があるようね。いいわ、きっちり話し合いましょう」
まだこんなおかしなやり取りが続くのかよ……。
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