不思議な少年(ボロボロ)を拾いました
それから説明書を神様達と一緒に読み込んだ。
メジェド様達については本人達が説明してくれた通りで、繋がりを得た事が見える様になった理由である事。
彼らの実体と言うのは存在の事であり、神様として世界にインストールされていないから、らしい。
実体が無いと同じ神様でないと見る事ができないし、こちらに干渉もできない。神様だけど、幽霊みたいなものだろうか。
神様なのに幽霊? と、考え込んでいるとメジェド様達は、簡単に神様というものについて教えてくれた。
神様は『神の器』と『神の魂』の二つが合わさって『世界に存在する神』となる。
その内の『神の器』というのは、人間に認識され信仰される事で生み出されるもので、例えるならば、そこら辺にある変わった形の石を神様だ! と、信じて祈りを捧げる事でその石と信仰が『神の器』となるんだそうだ。
しかし、そのままでは空っぽの器だけで、そこに意思は無いのだという。
そこで中身……世界に近い位置に生まれた高位精神体『神の魂』が入る事で、初めて意志のある生きている神様として、生まれる事ができる。
これが神様の基本構造で、メジェド様達の言う実体と言うのは宗教、信仰の事だ。
世界から、幻想達の存在した記録、記憶、認識が失われた事で『神の器』を作っていた宗教と信仰を失った神様達は魂だけになってしまった。
そして、神様は器を無くしても、死ぬ事は無い。
高位精神体はその名の通り、精神……魂が本体なのだ。魂が喪われない限り、この世界に生き続ける。信じていた人々に忘れ去られても、だ。
そんな神様が実体の無いまま干渉するには、繋がりを得る……契約する事が必須となる。
今回は『友達になって欲しい』という私の願いを、メジェド様達が受け入れる事で成立した。と、いう事の様です。
ただ、ジュエル化している時点で意識が無い状態なので、実体の無いままの幻想達は今のところ、メジェド様達しか居ない……らしい。
ジュエルの力を使うだけなら、彼らの意識は無くてもいいけど、私が一緒に冒険したいとルインに願った事で、コピーゴットという形で目覚めたとの事。
三柱インパクトによってうやむやになっていた、能力については、まとめるとこうだった。
まず、メジェド様の能力。
メジェドの衣(マント)を身に着け、ペンダントを装備した状態で発動させる事ができる。主な能力は透明化、目からビームでこれは他のジュエルと併用可能。
澪の能力は動体視力の強化と炎と水を操れる事の二つ。
澪の場合、バステト様の能力も一緒に付与される様になっていて、炎と水を操る力はバステト様の物になる。
他にも歌が上手くなったり、音楽の能力も彼女の加護によるものらしい。
その代わり、ジュエルとしての主体は澪になり、使った時の色彩や猫としての特徴は澪と同じになる。世界にインストールした時も、実体を持って目覚めるのは澪の方になる。
バステト様はジュエルを持たない代わりに、私のサポートをするため実体の無いままでも少しだけ干渉できるらしい。契約をしている事が絶対条件だけど。
次にセクメト様。
完全なパワータイプ。主に腕力特化で、本来は病なんだけれど毒と炎を操れる様になる。
世界にインストールした時は、バステト様と一緒に実体化するそうで。
それは、この世界の二柱の女神が対だから、と本人達が言っていた。
『生まれは同じでも、育っていく過程は別物だからなぁ』
なんて、セクメト様はケラケラと笑っていた。
サッパリしたお姉さん、または豪快な男の人みたいな印象のある女神様だなぁっと、思ってしまうのも無理は無い。
おぉっと、脱線してしまった。
澪以外の私の友達……茜と玄について。
茜は術特化で炎と植物を操る能力を、玄はセクメト様とはまた違うパワータイプだ。セクメト様が腕力なら、玄は脚力に特化している。
そして、操れる自然現象が無い代わりに、戦闘関係が軒並み高い。
三人について思ったのは、記憶している三人の能力とだいぶ違う事だった。でも、こうも考えられるのよね、あくまで『人が扱える範囲での能力』だって。
もし、私が記憶している通りの能力が使えるとしたら、玄の能力はヤバイ。正直、制御できる気がしないわ。
だから、説明書に記されている能力で良かったんだ。うん。
あぁ、今、あの三人は眠っているって事なんだよねぇ。インストール、つまり目が覚めるまで三人の時は止まっていると思って良いんだろう。
当然、三人の記憶は私が死んだ時か、少し後で止まったままになる。
起きたら、説教されるだろうなぁ。気を付けろとか、いざとなったら盗られた物は諦めろって、色々言われてたのに……。
思わず遠い目をした私に、三柱の神様は不思議そうな顔をしていたけど。
そして今、フードを被った私の周りには、ミニサイズになった三柱の神様が漂っている。
『お、ウサギ発見! そーっと近づけよ』
セクメト様が茂みの隙間を指さした。
澪のジュエルを発動し、メジェド様のジュエルも発動させた隠密スタイルに私はなっている。まぁ、見た目は忍んでないけど。
見えないのに何で、気配を殺してるのかって? メジェド様の衣って姿は消せても、音は消せないんだよ。だから、足音はするし気配でバレる。
だから、近づくのもそーっとだし、気配を殺す必要があるの。
段々と距離を詰め、水の刃を飛ばしてウサギの首を刎ねる。うぅ、やっぱキツイな。
私が三柱の神様のアドバイスのもと、しているのは身を守るための訓練と称した、ジュエルの力を使った狩り。
理由は生きていくための食料を確保するため、そして、容赦なく敵を倒せるよう慣れるために。
それもこれも、説明書に書かれた『依頼について』の項目のせいだった。
「えーと、復活した幻想達が皆、善良であるとは限らない。術が復活した事により、住人の中にもはっきりと認識し、使いこなす者も居る。そこに善悪は無いけれど、もし悪用している奴や暴れ回る幻想が居たら、キミ達で対処し倒す事も依頼に含まれるよ……はい?」
思わず低い声が出た。
あっれー? 私、修復の手伝いとしか聞いてないんだけどぉ。
戦うなんて聞いてないんだけどぉ!
いや、恩恵が前払いと言ってたから、察する事はできなくもない。でも、な? ちゃんとそこも言えよって思うのは、当たり前じゃないかな!
そして肝心な修復方法は『先輩に聞いてね』って、書かれていないし!
ルイン……悪徳商法の管理人だったのかな?
『やっぱり、やらかしたか、あの管理人』
「え?」
ため息を吐いたメジェド様に私は首を傾げる。
『えーっとね……桜ちゃん、怒らないで欲しいんだけど、ね』
かなり言いにくそうにバステト様が話してくれたのは、オリジナルの三柱を通して地球の管理人から与えられた情報。
ルインが『うっかり管理人』と呼ばれている事だった。
地球の管理人曰く、ルイン本人は悪人では無いし、真面目で仕事はこなせるタイプの管理人なのだが、どういう訳かここぞという場面でうっかりやらかしてしまうのだと言う。
しかも本人に悪気は無い。もしかしたら、今頃、慌てているかもしれない、と。
「ま、マジですか……」
説明書が中途半端なのも、お世話を頼んだという先輩がここに居ないのも、全部ルインのうっかりのせいなのか!?
本当に! これから! どうしろと!
地面に両手をついた私を励ました三柱の神様は、私に戦い方とサバイバルの知識を教えてくれると言って、今に至る訳です。
助かるけれど、捌くのはやっぱり辛い。そのたびに、私の事を愛称で呼びつつ、神様達が励ましてくれるけれど。
そして、泉の傍でサバイバルの講義を受けて実践を繰り返し、気が付けば数週間が過ぎていた。
そろそろ先輩を探すか、人里を目指そうかと考えていた日の晩に見つけてしまった。
「………」
身体のあちこちに傷を負い、ボロボロの着物を引掛けただけの男の子を。
夜目が効く猫耳姿で居る事を私は、一瞬、後悔した。
月明かりに照らされ、白い花に埋もれる様に倒れている姿に、私は全身が冷える様な感覚がして、生きているのか一瞬、解らなくて固まった。
『サクちゃん!』
ペシンとテト様(本人から提案された愛称)が、頬を叩いてくれたおかげで我に返る。
男の子に駆け寄り、仰向けにすると呼吸を確かめる。浅いけれどちゃんと胸が上下している、この子はまだ生きてる!
いくら人間に興味が無いとは言え、死にかけている子供を放っておくほど人でなしじゃ無い。
ここ数週間で使い方を覚えたアイテムボックス(見た目は空中に開いた穴)を開き、手を突っ込む。
取り出したのは薬草と空の瓶、ウサギの肉と石を研いで作ったナイフ。
「セク様、この子の身体に毒とかあります?」
セク様(本人から提案された愛称)が男の子を覗き込むと、首を横に振った。
『無いな。痩せてはいるが病にもかかって無い』
なら、単純にケガの事を考えればいいのか。
水を空中に浮かべ、その中に薬草を突っ込む、それを見つめながら錬金と念じると薬草が溶けて緑色の液体が出来上がる。それを瓶に入れ、蓋をした。
これも、もらった恩恵の一つ『錬金術のチート』だ。
道具があっても無くても錬金できるというもので、サバイバル生活をする上でめっちゃ役に立ちました。
もらっといて良かったよ、まさか誰も回復手段を持ってないとは思ってなかったからね! 材料さえそろっていればいつでも薬が作れるのは、サバイバル生活での生存率を一気に上げるから。
まぁ、道具があった方が、効力が高いらしいけど。ソースは説明書、作り方もね。
何とか形を保っている着物を慎重に広げると、生み出した水で男の子の身体を洗う。触れた身体はとても冷たかった。
意外だけれど、切り傷は少なくて多いのは擦り傷と打撲だった。
倒れたのは空腹のせいかな? なら、増血剤じゃなくて栄養剤が必要になるか。取り敢えず、ウサギの肉とナイフは仕舞う。
あ、でも、材料が無いな……どうするかなぁ。
考え事をしながら男の子の身体を洗っていると、ある事に気が付いた。
「……鱗? いや、入れ墨?」
男の子の背中と左胸に鱗の入れ墨があったのだ。
白い肌に浮かび上がるそれは、黒い線だというのにハッキリしていて、何と言うか蛇の鱗みたいに見える。
『違う、痣の様だぞ』
一緒に覗き込んでいたメジェ様(しつこい様だが、本人から提案された愛称)が、全身を横に振った。
「痣、ですか? 凄くハッキリしてますけど」
『入れ墨と言うのは、異物を身体に入れて作る物だろう。この童からはそんな違和感は感じない。故にソレは童の身体から生まれた物、痣と考えた方が良いだろう』
そういう物なんだろうか、私には解らないけれど。
身体をあらかた洗い、即席で消毒液を作って傷に塗っていく。ピクリと身体は反応するけれど、目が覚める事は無い。
衰弱が激しいせいだと思うけれど。
作った薬を傷に塗ると浅い傷はあらかた消えてくれた。打撲は……まぁ、内側からかなぁ? 内出血もしてるみたいだし。
飲ませるしかないかぁ。
男の子の頭を少し上向ける。残っていた薬を少量口に含むと、男の子の口を何とか開かせる、小さくだけど。
気を失っている相手に液体を飲ませる方法なんて、今できるとしたら一つだけ。口移しだ。
思うところが無いわけじゃない、私にだって乙女心はある。もう、救命行為なんだからノーカンだと思うしか無い。
顔を近づけ、かさついた男の子の唇に自分の唇を重ねる。薬を少しずつ男の子の口の中に流し込んでいく。
呼吸器官に入らない様に気を付けつつ、ちゃんと飲み込んでいるか確かめて、飲ませていく。何度か繰り返して、薬が無くなった頃には打撲の変色はだいぶ薄くなっていた。
息を大きく吐くと、思ったより緊張していたのか身体のあちこちがパキパキと音を立てた。
「意識が戻ればなぁ……」
『こればかりは、この子供しだいだなぁ』
『うーん、今できる事と言ったら、身体を冷やさない様にする事かなぁ? 効果があるかは微妙だけど』
男の子を覗き込んだテト様とセク様は、ちょっと眉を寄せていた。それだけこの子の状態が悪いんだろう。
頬を撫でるとやっぱり冷たかった。
「……死なないで欲しいなぁ」
初めて出会った人間の子供。不思議な痣を持った男の子。
死なれると目覚めが悪くて嫌だけど、何故かこの子と話してみたいと思う。痣の事とか傷の事とか、色々と。
私が人間に興味を持つとか、天変地異の前触れ? いや、私一回、死んでるしなぁ。むしろ奇跡の前触れ? そんな事、無いか。
まぁ、死なせないためには……。
「うん、やれる事やるか」
『何するのー?』
首を傾げるテト様に私は考える。取り敢えず、身体を冷やさない様にする事しかできないらしいし……この子の着物は……うん、役に立たないねコレ。
発動しているジュエルを澪から茜に変える。軽い音と共に狐耳と尻尾が生えた。
黒い耳と毛先の白い赤金色の尻尾、うん、見慣れた友達の尻尾だ。彼女はあまり見せなかったけど。
触ってもこっちが燃えない狐火を周りに飛ばしてから、尻尾に力を集中させる。すると尻尾が太く長く伸びる、巻き付ければ私と男の子をすっぽりと覆ってしまうくらいに。
「今日はここで寝ちゃいます。この子を抱っこして」
私の体温と狐火の熱にかけるしかない。
満月は空高く昇っているし、そもそも寝床に戻る途中だったし。場所が変わっただけと思えばなんてこと無い。
狐火で獣は寄ってこない……と、思いたい。虫? ははっ、慣れたよ。
神様達も何も言ってこないし、大丈夫でしょ。
よっこいせと男の子の上半身を持ち上げ、その下に私の尻尾を通して私の方にくっつく様に引き寄せた。マントの紐を解いて掛け布団代わりにして男の子を抱きしめれば、うん、寝られる。
尻尾が太いから何とか枕にもできた。
何だか気になって、男の子の胸元に耳を寄せるとちゃんと鼓動が聞こえた。消えずに明日も動いていて欲しいと願いながら、私は目を閉じたのだった。
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