コピーゴットと友達になりました

 まさかの二柱に私がアワアワしていると、咳払いの音が聞こえた。


『話を戻そう。あー、何と言うべきか……久しぶりであり、始めまして、か』


「初めまして?」


 何で? かの女神達なら初めましてだけれど、メジェド様は久しぶりなのに。


 首を傾げる私に、三柱の神々は困った様な雰囲気を漂わせている。


『説明書……だったか? その本を読んだのなら、この世界の事を少しは知ったのだろう? 幻想の失われた世界だと』


「はい」


『この世界の我々も失われた存在のままなのだ。本来なら自我すらも眠っている状態かつ、其方の記憶も無い。其方の願いを叶えるためには、しかなかった』


 ヒヤリとした物が、胸の中に落ちていく。まさか、私の友達……あの子たちも?


『今、欠片のまま話している我々は、其方の知る神々の写し……コピーなのだよ。写し元である我々は、あちらの世界で存在している。……まぁ、神が世界を渡るなど余程の事が起こらない限り、認められないから致し方無いが。あぁ、其方の友はオリジナルだから、安心してくれ』


 その一言に安堵の息を吐いた。友達までコピーだって言われたら、ちょっと立ち直れない。


『驚かせちゃってごめんねぇ。神の存在は、変えのきかない世界のパーツみたいなものだから……でも、あっちの私達はあなたの願いを叶えたかったし、会いたかったからこういう手を使ったの』


「私に会いたかった?」


『えぇ、保護されたメジェドがよく話していたもの、いつかもう一度会ってみたいって。眷属を大切にしている人間って聞いていたのもあって、私もセクも会ってみたくなったの』


 だから来ちゃった、とバステト様の声は笑った。


『それにこの世界にとっても、メリットがあるのだ。顕現した時にすんなりと神として動けるからな』


『そんなわけで、俺達実体は無いけど、話し相手になるし力だって貸すからな!』


 神様達の声に冷えていた私の心は温かくなっていく。


 コピーだって知った時は本当、心臓に悪かったし、澪達もコピーなのかって悲しくなった。オリジナルって聞いて安心したけど。


 じゃあ、三柱の神様はどうだろう?


 話してみて思うのは、コピーだろうが何も変わらないって事だろうか。私が会ったメジェド様の記憶と人格を持っているからかもしれない、けど、話してくれた事に誠意を感じた。


 黙っている事だってできたのに、偽物なんて、と拒絶されるかもれないのに、この方達は私に話してくれた。


 本当に、優しい神様達だ。


 自然と口元が上がっていく。


「はい、ありがとうございます。メジェド様、バステト様、セクメト様」


 彼らを信じよう。


 世界を渡るために乗り移りの様な事をしてくれた、私の守り神様達を。


 私の願いのために、本来あったであろう人格を塗りつぶしてまで、受け入れてくれた。今、ここに居る神様達を。


 視界が揺れる中、あちらで、人では無いものにしていたお願いを口にした。


「恐れ多いけど……あの、皆さん。私と友達になってくれませんか?」


 神と人の立ち位置は変わらない。あちらが絶対的に上位の存在だ。

 でも、それでも友達や家族として近くに居たい。


『『『もちろん』』』


 重なる声は何処までも優しい。


 手をと言われて誰も居ない空中に手を伸ばすと、手を重ねてくる二つの手と、寄り添う白い布が現れた。


 驚いて視線を上げると、二人の女性と布お化けが目の前に居て、微笑んでいた。


『これで、俺達は繋がった』


 褐色の肌で紅いワンピース姿の黒髪ワイルド系美女が紅の瞳を細めて笑った。


『まーだ、実体は無いけどねぇ。見えるでしょ?』


 同じく褐色の肌で黒髪に白いワンピース姿の琥珀の瞳の可愛らしい女性は、猫を思わせる仕草で小首を傾げた。


『これなら、其方……桜も寂しくないだろう?』


 描かれた目がクルクルと変わる布お化け……メジェド様は兄の様な視線を向けてくれた。


 神様達の姿が見える様になった瞬間、新しくできた繋がりが澪達の繋がりと一緒に温かさをくれる。


 抱き着きたいけれど、実体は無いから、私はフードを下ろして神様達に笑顔を見せた。


「これから、よろしくお願いします!」


 元気よく言った私に、三柱の神様は笑顔で頷いてくれた。

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