第4話兄と妹と突然の訪問者(バレンタイン特別版)

“バレンタインは、チョコレート会社の商業戦略だって、お兄ちゃんは言ってた”


「おにーちゃーん!!」

ニタニタとしながらお兄ちゃんに近寄ってみる。嫌そうな顔をしながら、兄は私の方を向いた。

「なんだよ、用があるなら手短に言え」

「えー、そんなこと言っていいのかなぁー、今日はバレンタインなんだよー。チョコレートあげないよー」

「俺はチョコレートが大っ嫌いなんだ!いいからあっちいってろ!」

お兄ちゃんに蹴散らされた私は、わかりやすくほっぺを膨らませて、リビングへ向かった。

私とお兄ちゃんは12歳離れている。年の離れた兄妹は、仲がいいなんて言うけど、そんなのウソだね。お兄ちゃんは私のことをいつも邪魔だと思ってる。え、私がお兄ちゃんをからかうからだって?そりゃ、からかいたくもなるよー。だって、お兄ちゃんは今年で28だよ。なのに、彼女もつくらないで家でずーっと難しいことが書かれたパソコンの画面を見てるんだもん。妹としては、早く彼女を作って、結婚して欲しいんですよ。まぁ、ただ私が、姉が欲しいってだけなんですけど。


どっかりソファに座り、テレビでも見ようと思った。テレビはどこもかしこもバレンタイン特集で、有名ショコラティエやチョコレート大好き芸人が出ている。

正直、こうもバレンタイン、バレンタインと世間で騒がれると、お兄ちゃんに限らず、私も悲しくなる。私はあげる相手もいないのだ。想われもしなければ、想いもしない。年頃の娘なのに、なんて悲しいんだ。

そんなことを思っていると、インターホンが鳴った。お母さんもお父さんもきょうは仕事でいない。お兄ちゃんは絶対に出ないから、私は重い腰を持ち上げた。はーい、今行きまーすと言うと、上からお兄ちゃんが物凄い勢いで降りてきた。これは何かあるぞと思って、私はお兄ちゃんより先に出てやる、と急いで玄関に向かった。着いたのはほぼ同時。扉の前で押し問答が続いた。

「お前、俺が出るからリビングに戻ってろ!」

「お兄ちゃんこそ、私が出るから部屋に戻ってれば!それに、いつも出ないくせに、今日だけ出るなんて!」

「いいだろ別に、今日はそういう気分なんだよ!」

「何よ!あ、わかった、通販で見られて困るようなもの買ったんでしょ!」

「お前、俺をからかうのもいい加減にしろよ!」

どんどん大きくなる声が聞こえたのか、外から話しかけられた。

「あのー、裕太くんと妹ちゃん?」

聞こえたのは、女の人の声だった。一瞬固まったお兄ちゃんの隙をついて、私は勢いよく扉を開けた。そこに立っていたのは、とても綺麗な女性だった。なんて言うか、こう…なんかのミスコンとかにもでれそうな!ミスコンとか詳しく知らないけど……

その人はお兄ちゃんを見るなり、ニコッと笑った。

「良かったー、家にいてくれて。裕太くんがいなかったら、誰って感じになってたもんね」

いや、お姉さん。今まさに私は、誰ってなってるから。

「なんで来たんだよ!今日じゃなくてもいいって言っただろ!」

女性はキョトンとした顔で兄を見ている。

「でも、渡したいから頑張るねって、言ったらいつでも楽しみにしてるって、言ってたじゃない。だから、私頑張ったのよ。院の研究室にもいなかったから、羽柴さんに聞いたら、裕太くんの家教えてくれたの」

それを聞いたお兄ちゃんは、羽柴のやつ次会ったら覚えてろよ、と呟いた。私はその羽柴さんとやらを全く知らないけど、心の中で手を合わせた。ご愁傷さま。

女性は鞄から赤い箱を取り出した。

「はい、ハッピーバレンタイン!」

お兄ちゃんは仕方ないな、と言った様子でその箱を受け取った。それは、私でもわかる。チョコレートだ。お兄ちゃんに彼女が出来るだなんて、私は涙が出そうになった。(まあ、出ないけど)

ポケーっとしている私に、女性は微笑んだ。

「これからもよろしくね、妹ちゃん」

「はい、クソ兄貴ですが今後ともよろしくお願いしますね」

「おい、誰がクソだ」

「うふふ、私はクソ姉貴にならないようにしなくちゃね」

「へ?」

女性はまた、うふふっと笑った。とっても幸せそうに

「私、もうすぐあなたのお姉さんになるのよ」


“バレンタインは、チョコレート会社の商業戦略だって、お兄ちゃんは言ってた。私にとってバレンタインは、将来の姉と初めてあった日になった”

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