第3話ユリカとトモ

“雨が降るなんて聞いてない”


「はぁ?そこまで言ってないじゃん。ユリカって時々被害妄想入るよね?」

「被害妄想じゃない‼トモの言い方だとそう言ってるのと同じだって言ってるの‼」

「くどい‼」

 そう言ってトモは走って帰ってしまった。私とトモは小学時代からの大親友で高校が別々になった今、久しぶりに会ったのだがケンカしてしまった。

 私は反省もせず、自分一人でも楽しんでやると近くの大型商業施設に入った。洋服屋にアクセサリーショップ、フードコートにペットショップ、映画館もある。これだけあれば一人でも十分楽しめそうだ。さっそく映画館のパネルから見る映画を決め、シアタールームに入った。

 観た映画は恋愛もの。現在彼氏募集中のユリカにとって、運命的出会いをし、恋に落ちていくヒロインを見て夢を抱かずにはいられなかった。私もいつか……。そんなことを思いながら約二時間を浪費した。

 すっかり機嫌が良くなったユリカは大きなガラス窓からクレープ屋が来ているのを見つけ、商業施設をあとにした。

 上からは分からなかったが、クレープ屋はテレビで特集される程有名な移動店舗だった。

「ラッキー、今日はついてるなぁ~‼」

 五分程並んで手に入れた苺たっぷりのクレープを口いっぱいにほおばった。そのおいしさに驚き、つい声が出てしまった。

「え、おいしすぎ‼」

「そうですよね、流石特集されるクレープですね」

 声が大きかったのか近くにいた見知らぬOLに同調されてしまった。恥ずかしい……。

 照れて無我夢中でパクパク食べていると、手の甲にポツリと何か落ちてきた。

空を見てみるといつの間にか重い雲に覆われていた。

次第に水滴が落ちてくる間隔は早くなり、本降りの雨になった。急いでどこかに入ろうとしたが、同じことを考えている人ばかりで、ぐるっと見まわしてみて雨宿りできそうなところは、全て埋まってしまっていた。

(とにかく、このクレープを守らなきゃ)

 クレープに覆いかぶさるようなかっこをして、歩き出すと人にぶつかってしまった。

「すみませ……」

「何、変な格好してんの?」

「あ……トモ」

 目の前には、傘を私の方にい傾けて立っているトモがいた。

 私はケンカのことなんてすっかり忘れてしまっていて、トモの質問に答えた。

「クレープ守ろうと思って……」

………。

………。

(え、何この沈黙?)

「ぶっぶははははははWWWW」

いきなりトモが笑い始めた。しかも指さしながら。

「ちょっと、指さして笑わないでよ。ほんとおいしんだからねこれ。有名なクレープ屋なんだから‼」

 それでもトモは笑っている。それを見てると私も何が面白いんだか分からないけど笑って、笑って、笑いが止まらなくなった。

 雨は通り雨だったみたい。



“雨が降るなんて聞いてない

でも、ケンカも仲直りも予報なんてない“

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る