別れ時

「君は一体僕に何を求めているの? 僕はね、僕は、君にこれ以上の事は何も望まないよ。一緒にいるだけでいい、愚痴を言い合って、一緒にストレスを発散して、悲しいときには泣いて、楽しい時には笑って……それじゃあいけないのかい?」

 欲張りだった。それがこの結果を招いた。見事、彼に嫌われた。ざまあみろ。やはりお前は簡単に嫌われてしまったではないか。その程度の価値しかない人間であると、とっくに自分で気付いていただろうに、どうして彼と付き合ったりしてしまったのか。バカだ。つくづくそう思う。

「もう限界だ。僕たち別れよう」

 ぽつぽつと何かが地面に落ち始めた。雨だ。次第にその勢いは強くなっていく。忽ち、ざあざあと土砂降りの雨に変化した。屋根を打ち付ける音が喧しいほどだった。

 男は女を冷めた視線で見た。憐れみはまだ残っているようで、ため息を吐いた。傘を買って来よう。しかしこれで終わりだ。こいつとは縁を切る。

「傘持ってないよね。僕が買ってくるから……確かすぐそこにコンビニがあった……はず――待ってて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る