第二話 運命の出会い(12)

 休息日のアルコイリスは、予想以上の賑わいを見せていた。

 アルコイリスの南北にまっすぐ伸びる大通り。

 その左右に並び、展開される店はどれも有名で、人の列が絶えない。

 そこから一本奥に入ると、今度は小さな店が所々に並んでいる裏通りとなる。

 個人が経営するこぢんまりとした店だが、その分、個性や独特の、と言った風の店が並んでいるため、裏通りは裏通りで人気があるのだ。

 その裏通りを歩く二人の男女――レイとエラ。

 傍目に若い男女が並んで歩いていれば恋人に見られるかもしれないが、二人に限っては恋人というよりも仲の良い友達に見られような雰囲気だった。

「大通りもすごいけど、裏通りもまたすごいなー」

 語彙の少ないレイが、左へ右へと視線を向けながら歩く。

「大通りは各国の有名店が並んでるけど、裏通りは個人が経営してる店が多いから、種類も豊富なのよ。変わったお店もあるし」

「へぇ~」

 と感嘆の声を上げながら歩いていたレイが、その足を止めた。

 その視線は、ある店の前で止まっていた。

「知ってるお店?」

「ソラご利用のお店だ」

「ソラ……ああ、練習用のロウソクを買い占めて驚かれたって言う」

「そう、それ。しかも、外出無許可で買いに行ったらしいぜ」

「ふふっ、ソラらしいわね」

 お互いにその時のことを思い出し、思わず笑ってしまう。

「入荷してるか見てやるか」

「そうね」

 レイという男は、思った以上に友情に厚い。

 ソラの練習にも文句を言わず、こうしてわざわざ店の中を覗いてくれる。

 そんなレイを好ましいと思う自分がいる。

 口には絶対に出さないけど。

 そう思いながら店に入ろうとした瞬間、

「うおっ!」

「きゃっ!」

 店から飛び出してきた赤毛の女性に、レイとエマは左右に避けた。

 二人の間を通り過ぎる赤毛のストレートロングヘアーは、あまりにも見覚えがあり、同時にどうしてこの人がこんなところに?

 いや、それどころか何で店から飛び出す勢いで走り去っていったのか――そんな疑問が次々と湧いて出てきた。

「今のって……」

「ええ、多分……」

 お互いに避けたままの格好で、走り去る背中を見送る。

「あら、エラじゃない」

 名前を呼ばれ、店の入口の方へ向き直る。

 そこに立っていたのは、四年生のフィリス・アークエットだった。

 エラに水のエレメントを教えてくれているパートナーで、水使いではイリダータで間違いなく一番だろう。

 気品に溢れ、言葉使いや所作、見た目も大人びて、エラにとっては憧れの女性だった。

 だから、エラはフィリスのことを――

「お姉さま!」

「お姉さまぁ?」

 エラの呼び方に、レイが素っ頓狂な声を上げる。

「キミは……ああ、キミがレイ・バーネットね」

「は、はい」

「お姉さま、今のって、あの……」

「ああ、あれはいいのよ。放っておいて」

 あのカーマイン・ロードナイトをあれ呼ばわりできるのは、生徒のなかではフィリスだけだろう。

 実際、名実共に肩を並べる唯一の存在なのだ。

 この二人に憧れる生徒は少なくない。

 もちろんエラもその例に漏れない。

「それにしても、ひとりになっちゃったわね」

 わざとらしく嘆息するフィリスに、エラはすかさず声を挟んだ。

「あ、あの、お姉さま。よければ、これから一緒にランチでもいかがですか!」

「あら、お邪魔虫にならないかしら?」

 にこりと微笑むフィリスに、エラはぶんぶんと顔を左右に振った。

「むしろ、お姉さまを前にしたら、こいつの方がお邪魔虫です」

「おい」

「じゃあ、行きましょうか」

 フィリスが、腕を差し出してくる。

 エラはその腕に飛びついた。

「はいっ!」

「はい、じゃねえよ!」

 さっそく歩き出す二人の背中にレイがつっこむ。

「ほら、行くわよ後輩。付き合ってくれるお礼に、おごってあげるわ」

「どこまでもついて行きます、お姉さま!」

 駆け足で二人を追いかけるレイに、

「ちょっと! 私のお姉さまをあんたの汚い声で呼ばないでよ」

 と憤慨しながらも、エラは楽しくて仕方がないという風に笑って見せた。

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