第二話 運命の出会い(10)

 エラ・グリーンは友達が少ない。

 どうにも相手を拒絶してしまうというか、言葉使いも棘々しくなってしまい、声をかけてくれた同性の生徒も、ひとり、またひとりとエラから距離を置くようになっていった。

 別に寂しいわけではない。

 風の国の学校でも、エラは独りだった。

 教養とエレメントを学び、成績も上位を保ち続け、そしてイリダータへの切符も手に入れた。

 イリダータに行ったら、自分を変えようと思い、まずは同じ席に座った子に話しかけようと誓った。

 そして出会ったのが、ソラとレイだった。

 何となく同性を避けてしまい、気がついたら二人と同じ席に座っていた。

 ソラは年下で、愛嬌のある子だ。

 素直で、男というよりは少年に近い感じ。

 だが、その年齢でイリダータにいることの意味を、エラは実演の場で知った。

 自分がちっぽけに思えてしまうほど力量。

 それでもソラは驕らず、どちらかというとエレメントに対して楽しんでいた。

 ソラの隣は心地よい。

 自分を偽らず、飾る必要もない。

 ソラの笑顔に、嘘はない。

 ソラは自分を友達と呼んでくれた。

 そして、もうひとりの友達がレイだ。

 彼はなんというか、壁がないのだ。

 エラが独りでいるときにもよく話しかけてくる。

 素直になれず顔を背けると、遠慮なしに隣の椅子に座って文句を言いながらも話を続けてくれる。

 そうやっていつの間にか話し込むこともある。

 共通の友達であるソラのこともよく話す。

 今のソラは、空いた時間をすべて火のエレメントの習得につぎ込んでいる。

 その集中力と持続力には、レイも舌を巻いていた。

 エラは空いた時間によく読書をしていた。

 カフェで独り、黙々と本と向き合う。

 これは単なる趣味だが、誰とも出かけたり遊んだりしないからという面もある。

(休息日……かぁ)

 生徒のほとんど――特に一年生は、アルコイリスの町並みがどんなものかと意気揚々に出かけていった。

 エラは今日も本を読む。

 だけど、もしこんな自分を誘ってくれる人がいたら、自分はどうするだろうか。

「なんだ、ここにいたのか」

 聞き慣れた声に顔を上げると、向かいの椅子にレイが断りもなく座り込んだ。

「な、何か用?」

 わざと不機嫌な表情を作り、顔の下半分を本で隠す。

 心の中で、もしかしてと思う自分がいて、それが口元に出てしまいそうで隠してしまった。

「今からアルコイリスに出かけるんだけど、一緒に行かないか?」

「わ、私と?」

「こうして俺の目の前にいるのはお前だけだ。他に誰かいるか?」

 レイはわざと周りを見渡し、いつものように茶化す。

「そういう意味じゃなくて、私なんかと、っていう意味よ」

「それこそ意味が分からないんだが? 本を読んでいたいならいいけど、俺としては、お前と一緒に行った方が楽しいだろうし」

「た、楽しい?」

「そりゃあ楽しいだろ。ひとりだと話す相手もいないんだし。今日だけ、特別に昼飯おごるぜ。どうだ?」

 ソラとは違う、気さくな笑み。

 目の前の男は、心から自分を誘い、本心から楽しいと言ってくれる。

 こんな自分を……こんな……、

「……い、行く」

「よし、決まりだな。じゃあ、行こうぜ」

「え、ええ」

 勢いよく立ち上がるレイに、エラも読みかけの本を閉じ、続く。

 大きな背中――そんなことを思いながら、エラは少しはにかんだ顔を見られないよう、レイの背中に近づき、顔を隠した。

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