第9話 手持ちの知識や技術を活かしたい

 『なろう』におけるチートには、大きく分けて2種類あります。

 一つは、前回扱いました『チート付与』、転移や転生に際して、本来持っていなかった能力を付加される物です。

 そして、もうひとつは『知識・技術チート』、現代の地球で学んだ知識や技術を活かして、過去や異世界で活躍するというものです。


 これは当初、あまりチートという認識を受けていませんでした。というのも、知識や技術自体は自力で学んだものですし、昔は転生より転移の方が主流だったからです。

 『先進国で知識や技術を学び、発展途上国へ行って活躍する』のは卑怯チート『ではない』、ならば、『転移によって異世界に行き、故郷の知識で活躍する』のは卑怯チート『ではない』、という論法です。あるいは、『海難事故で無人島に漂着したが、持ち前のサバイバル知識で生き延びた』と同じように、『召喚事故で異世界に転移したが、持ち前の現代知識で生き延びた』と解釈するわけです。


 この知識・技術系は支持者の多いテンプレの一つですね。

 『チート付与』系でも、それとは別に、『現代知識からのさすがご主人様』を差し込んで来るくらいに超メジャー級のテンプレです。

 さて。では、その魅力とは何なんでしょうか?


 『チート付与』の魅力は『現実では出来ない事が出来る爽快感』でした。それはそれで、読者としては素晴らしい。ですが、それらの主人公たちは『どうやったら強くなれますか!?』とか『貴方みたいになりたいです!』といった、羨望や尊敬の念を向けられると、一様に困ってしまいます。なぜなら、主人公も読者も理解しているからです。凄いのは『付与された能力』であって、『使用者自身』ではないのだという事を。


 そうです、この悩みに対する答えが『知識・技術チート』なのです。

 『知識・技術チート』の最大の強みは、経緯はどうあれ、主人公自身が自分で獲得した能力だという事です。これを評価されたとなれば、主人公の自尊心はうなぎ登り、ひいては読者の満足につながります。それが一般的な知識であれば、なお良いでしょう。読者は主人公を通して、自らに称賛を置き換えられます。『この世界に行けたら、良い所無しの自分でも活躍できる!』と夢が広がります。

 まさに『褒めよ、称えよ』ですね。今も昔も、人を動かすにはコレ、という事なのでしょう。


 これは、いわゆる『自己承認欲求』に関する部分です。ただ褒めて感謝すれば良いという訳ではなく、『何をどう褒めるか』が大切という話ですね。だから、『チート付与』系の物語でも、いかに『能力そのものではなく、主人公自身に感謝と称賛を向けるか』という所で、読者の満足度が大きく変わってくるわけです。


 ただ、まぁ、なんと言いますか……そんな物語に読者の支持が集まるという点で、現代社会において如何に感謝や称賛が足りていないか、という証左のような気もしてきますが……。

 もし、ご覧の皆様の心に僅かでも余力がございましたら、是非、一人でも多くの身の回りの方々に、感謝と称賛を捧げて頂けたら幸いです。

 金は天下の回り物、情けは人の為ならず。物語にすがるまでも無く、心を満たすだけの感謝と称賛が得られる世の中に出来るなら、それに越したことは無いのですから。

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