第17話 ちさと、初めてのお泊り会 そのに
「くはぁ~良いお湯だった~。まぁ湯加減の調整とか、水を直接入れるってあれが無きゃ満点だったかもな」
「まみさん…その発言…親父っぽいですよ…」
「いいだろ?ってかあのお湯って温泉?良い匂いしてたけど…?」
「いいや?あれは温泉の素を入れただけ。気分最高だろ?」
司もタオルを準備しながら、まみの質問に答えた。
「あ~それで…。でも、ここなら掘ったら出るんじゃないの?」
「それがな…法律でちゃんと届け出を出さないと、温泉って掘っちゃダメなんだよ。俺は別に温泉旅館を経営するわけじゃないから、そこまではしないさ」
「へぇ…。そうなのか。誰も居ないんだから、黙って掘ればいいじゃん」
そう言うまみに、司は頭を抱える。
「あのなぁ…これでも俺は健全に人生を全うしているんだ。今はちさの事もある。勘弁してくれよ」
「そ…そうですよ。私のパパを犯罪者にしないで。」
ちさとも司を庇う。
「
「まぁ…君の家庭事情は知らないけど…、もっとこう…言葉使いに気を付けないと…な」
「ホント、まみさんはいつもこんな口調ですから。」
「いつもってなんだよ。いつもって」
まみは頬を膨らませる。
「ははは…。おっと、二人はあっちの二段ベッドを用意してある。まぁ上下どちらもギリ二人寝れる幅はあるが…まぁ一人一人のが良い気がする。どっちにするかは任せるよ」
司の言葉に、まみとゆあは奥のカーテンを開けてみる。
「おー。すげぇな。車中泊って初めてだ」
「私も…。キャンピングカーなんて憧れます。」
すると、まみはちさとをジッと見つめる。
「な…何?」
「ちさは…?一緒に寝ないのか?」
「わ…私は…こ…こっちでパパと…」
すると、ゆあまでちさとの方向を見る。
「あらやだ。夫婦水入らずで寝るのね~いいわぁ」
「ち…ちが…わないけど、違います。」
ちさとの顔が赤い事は、二人にバレバレであった。
「あ~。まぁ二人の言いたい事は分かるが…。事情はちょっと複雑でな。」
司が横やりを入れる。
「
「そ…そう…なの…。今までは、お母さんがいたから…なんだけど…」
「なんだよ。てっきり、もうヤっちまってるんかと…」
「ま…まみさん…、それまったくオブラートに包んでませんけど…」
「や…やってませんって。もう…」
「ったく…君達最近の若者の、保健体育は何を教えているんだ?」
「三人共早く寝るんだぞ。それとゆあさん。君の母親にも現在の状況を連絡してある。」
「は…母からは、何か返信は来てますでしょうか?東雲先生」
「ああ。今…返信が来てる。見るかい?」
「は…はい。」
ゆあは、司のスマホで母親の返事を見る。そこにはこう書かれていました。
『楽しそうでなによりですが、宿題もしっかりやらせてください。明日には戻ってくるのですね?』
その返事の前に、三人の食事風景が投稿されていました。
「あ…これ、食事してる時の写真。これ送ったのですね。」
「さすがに…プールはマズイだろ。」
「確かに。お泊り会として伝えているのに、プールは無いですね。お返事も母らしい返事です。同級生と聞いて驚きましたけど、おかげで良い経験をさせていただきました。ありがとうございます」
「そんなに、君のお母さんは厳しいのかい?」
司の質問に、少し答えを考えつつ、ゆあは答えた。
「第一に娘の安全を考えているのは、多分どこの家庭も同じ普通の事なんだと思いますけど、滅多な事では一人で外出はさせてくれません。例え仲の良い友人同士であってもです。」
「へぇ~箱入り娘ってヤツか?」
まみが横やりを入れる。
「多分…自分の失敗を、娘である私にはさせたくない…そう思っているのかもしれません」
そう言うゆあに、司も少し返事に悩んだ。
(ふむ…それぞれの家庭に事情ってものがある。アイツの娘って言う事であれば、同級生間で噂になった事が絡んでいるのかもしれないし…)
「本当なら、明日も泊まる予定だったけど、ゆあさんの母からの返信で、明日には戻る事が前提であるように思えるので、ゆあさんは、明日ご自宅にお送りしますがよろしいですか?」
「は…はい。先生にはお手数をおかけします」
ゆあは司に、ゆっくりとお辞儀する。
「いいんだよ。それが人の親ってものだ。昔なら近所の誰かが必ず見ていたものだが、今は近所であっても親交が薄い。心配して当然だと思う」
「はい。では東雲先生。おやすみなさい」
「おやすみ」
すると、まみがちさとの手を引っ張る。
「ちさ~。あたしと一緒に寝ようぜ?それなら、寂しくないだろぉ?」
「え…ええ?。あ…はい。こ…こちらこそ。よろしくお願います。」
ちさとがちょっぴり寂しそうな顔をしているように司は見えました。しかし、嫌がっているというよりは、初めての友人同士での夜に、緊張しているという方が正しかったのです。
(さてっと…)
司は、車内の照明を少し暗くすると、一人でお風呂へと向かいました。
(マジこええな)
司は内心ドキドキしながら湯船に浸かっていた。
(あいつらは三人で入ってたし、こんな山奥に変質者がやってくるなんてまずありえないから、女の子だけでも安心だと思っていたが…。)
司は外を見る。そこには曇り空が月を隠し、一寸先も見えない闇、時々ガサガサと生い茂る草木が揺れる音。露天風呂であるが故に、野生の動物が出て来た日には、丸腰で戦う事になるだろう。
(一応…熊とかの動物対策として、簡易的に柵とか、触れると鈴が鳴るようにとかしてるけど、こいつは…失敗だったかもしれん…。)
司は早々に切り上げて、キャンピングカーに戻るのだった。
(あいつらはもう寝たかな?)
キャンピングカーに戻った司は、車内が静まり返っているのを確認する。三人が寝ているベッドのカーテンを、少しだけ開けて中を覗いてみると、下段にゆあが、上段にちさととまみが寝ていた。
(こういうお泊り会って、深夜までバカ騒ぎするのが普通だろうに…実は皆、結構真面目な育ち方をしているって事なのかもしれんな…)
司はカーテンを戻すと、三人に迷惑をかけないよう、照明をパソコン接続のUSB照明のみにして、執筆作業を始めた。
(ん…)
眠りに入ってからどれくらい経ったのだろうか。ゆあが目を覚ますと、まだ辺りは暗く、カーテンの奥から薄っすらとだけ光が見えていた。
(トイレに…行きたいな)
ゆあはゆっくりとカーテンを開けると、薄暗い車内で執筆作業を行ってる司が見える。
(東雲先生?)
ゆあはそう思いつつ、まずはトイレで用を済ませる。その後、作業中の司へ近づいていく。
「ん?ああ、君か。」
気配に気づき、司がゆあを見上げた。スマホで時間を確認すると、時計は0時半を廻っていた。
「もう…こんな時間だったのか…。」
ゆあが司のパソコンを見ると、そこには司が執筆中だった小説が映っていた。
「わぁあ。東雲先生の生原稿~♪。パソコンで執筆しているんですね」
「ああ…。それは最新話の書きかけだが…。良いのか?まだ添削も終わって無いし…。」
そう言ってる間にも、ゆあは原稿を上から読んでいた。
「そう…そうよねぇー。あ…凄い…こんな切り返しが…」
「ははは。まるで小学生の作文みたいだろ?俺も…そう思っている。」
「そんな事ないです!」
「そうなのか?」
ゆあの目は、司が思っている以上に輝いているように見えた。
「はい!あ…ここ、変換ミスかな」
「どれどれ?あちゃーホントだ。サンキュー」
司は指摘された部分をちょちょいと直す。
「私…小説家って憧れなんです」
「そうなのか?俺は…趣味で始めたようなものだしな…。今までだって大学で勉強したわけでもなく、文系だったわけでもなく、かといって、他の作家が書いた小説を読んでいるわけでもない」
「文系じゃないなら…理数系?」
「そう…。どちらかといえば、実験とかそう言うのが得意だったんだなぁ」
「意外です…理数系の人でも、小説書けるんですね…。」
すると、司は軽く首を振る。
「いいや…。確かに俺は理数系だったが、小さい頃によく怒られて反省文書かされた事があってね。作文力はあれで鍛えられたわ。わははは」
「そ…そうなんですね…」
「さて…そろそろ俺も寝る。君も寝たまえ。」
「はい…東雲先生…。」
「司でいいよ。」
司はそう言うと、ゆあは少し躊躇いながらも…。
「つ…つかさ…さん。おやすみなさい。」
「おう。おやすみ」
―――翌朝。
司達は朝食を済ませたあと、ゆあの自宅を訪れていた。
「おかえり~ゆあ。」
「お母さん、ただいま。」
ゆあの母は、司の事をジッと見つめる。
「ふぅ~ん。何もしなかったんだ~意外ねぇ」
「意外じゃねぇだろ。さすがに犯罪だっつ~の」
「ごめんごめん。道眞君に限ってそんな事ないか~」
ゆあの母はそう言って、司にウインクした。
「ゆあさん。ちさとをこれからもよろしく頼む」
「こちらこそ、司さん。」
「ん~?司って…道眞君の事?なんで?」
「お母さんは入って来ないでよ!」
「教えなよぉ」
「ゆあさんバイバイ~」
この後ゆあは母親に、司が自分の読んでいる小説の作者である事を説明したという。
「さて…まみさん…だっけ?君も家まで送るかい?」
「ん~あたしは今日も付き合うよ」
まみはそう言って、司の腕に掴まる。その行為を見たちさとが、いきなり反対側の腕を掴んでくる。
「パパはちさのモノだもん!何勝手に腕組んでるのさ~」
(おーい…。俺はまだ、誰の物でもありませんが…。と言うか痛いです)
司は満更でもないようだ。まみは自身の母親に再びLINEを送る。
(今夜また、お友達の家に泊まって来るね!)まみ
ピコリン
(いってらー)はは
この簡単にやり取りをする姿に、司は戸惑いを隠せなかった。
「最近の子の親は、LINEとかでこんなに簡単に外出を認めても良いのか?」
「あ~うちの親、料理とか苦手だから…」
「いや…そんな問題じゃない気がするが…」
「父親がいるときは、父親が作ってたんだけどな。すれ違いすぎて離婚しちまった…」
「…あ~まぁ…分からん事も無いな…。」
司は頭を抱える。
「とにかく、あそこ行こうぜ?しんみりしちまうじゃないか。」
「ってお前が仕切るなって…」
司は仕方なく、再び秘密基地へ戻る事にした。
「ごめんね。パパ」
「なんで、ちさが謝るのさ…」
運転中の司に、急に謝って来るちさと。
「いや…だって…。友達…だから…。」
「気にするな…。俺の友人にも、言葉だけは立派な奴がいる。あとは、その言葉に対していかに動けるか…それが大切だ。」
「なんか、遠回しにディスられているような気がするけど?ちさパパさん」
「司でいいよ。パパと言う言い方も、間違ってはいないが…。」
「なんだよ。恥ずかしいのか?」
「自分の実子にすら『パパ』なんて、久しく呼ばれていなかったからな。ちさとだけの特別な言い方にしたかった…。ってのがホントのところだ。」
そんな司の答えに、ちさともそうだったが、何故がまみまで顔が赤くなった。
「いいなぁ…ちさぁ…愛されてるなぁ~」
「パ…パパ。急に何…?。こっちも恥ずかしいんだけど…」
こんな会話もあったが、さすがに山奥の秘密基地への長い道のりでは会話が続かず、到着頃には皆、無言となっていた。
到着後すぐ、司はプールの状態をチェックする。
「OK、水温もばっちりのようだ。いつでもいけるぞ」
すると、司はいきなり衣服を脱ぎ始めた。
「ちょ!変態。なんでここで脱いでるのさ!」
まみが驚くも、よく見ると既に水泳パンツを履いた状態だった。
「ずっと着たままなの、忘れてたんだわ」
と、司は含み笑いをしながら言った。
「私達も着替えよう、行こうまみさん」
そう言うと、二人も更衣室へ入って行った。そしてしばらくすると、水着姿の二人が出てくる。まみは昨日のスク水ではなく、一緒に購入したプライベート水着だった。色合い的にも褐色の肌に良く似合う色を選択したのか、バランスの良い色彩となっている。
対してちさとは、大きなバスタオルを体に巻き付けて登場した。
「ん?どうしたちさ。バスタオル取らないと、水泳の練習にならんぞ?」
しかし、司は薄々気づき始めていた。それは小説家の勘で、このような状態で恥ずかしがる女性は、大体危ない水着を着けているものだと。
「もう覚悟しちまえって、ほら!」
「きゃあ」
まみが勢いよくバスタオルを引っ張ると、そこには予想通りなビキニを着た、ちさとの姿が現れた。
(あー、やっぱり)
司は思わずため息が出てしまう。しかし、落ち着いてちさとに近づく。
「似合っているぞ、ちさ」
ちさとは、無言で顔を縦に振った。その顔は赤面で、そして喜びの笑顔で溢れていた。
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