第16話 ちさと、初めてのお泊り会 そのいち
プールを小一時間堪能した三人は、夕飯を作る事になりましたが、既に日が沈んでしまい、天気が曇りという事もあって、一歩外に出ると、そこには暗黒の空間が広がっていました。
「あーこりゃ野外で食事作るのは難しいなぁ」
キャンピングカーには外部照明も付いているものの、そこまで広くを照らすのは難しいので、車内のガスコンロを使っての食事作りとなりました。しかし、キッチンスペースは狭いので、外と中で分担する事に。
「ちさちゃん、包丁さばき上手。いつも料理作っているの?」
「小さい頃から一人で作る事が多かったんだ。自然と覚えちゃった感じ」
「へぇ~。凄い~じゃあ東雲先生の胃袋も、掴んじゃってるのね~」
「そ…そんな…、最初は…作ってもらってばかりだったし…恩人だから…その、せめて料理くらいはって…」
ちさととゆあは、室内でテキパキと料理を作っていく一方、外では司とまみが、マイペースにじゃがいもの皮むきをしていた。
「そうそう、じゃがいもは芽に毒があるから、穴は少し深めになっても問題ないよ」
「ぅぅぅ。む…難しいな…」
ピーラーを駆使しながら、ゆっくりと皮を剥いていくまみ。簡単とは言われたものの、かなり深めに剥いてしまったりと、苦戦を強いられていた。
「あ…あのさ。」
「ん?」
「ちさ…の事。あんたはどう思ってるんだ?」
まみは車内の二人に聞こえない程度に、司へ質問をぶつけてみる。
「俺には…息子二人がいる。女の子が欲しいって思ってたくらいでね。ちょっとだけ歳の離れた娘ができた…とは思っている。」
「あいつは…あんたにゾッコンみたいだぞ?」
「知ってるよ。」
「なら、恋人で良くね?」
「ん~
「なんだよ…それ。」
「ん~君は、俺とちさにどうしてほしいのかな?間違っていたら申し訳ないが…、君は若干男が苦手なタイプに見える…。今も少しだけ俺と距離が離れているのが証拠。その歳で…男が嫌いになる何かがあった…。違うかな?」
「そ…それは…ちさも同じじゃねぇか…。あえて言わなかったけど、あいつの全身の
「そうだね。あれでも大分薄くなったんだよ。出会った頃に見せられた時は…もっと濃かった。」
「…それでもあいつは…ちさはあんたを好きになった。あたしなら…いや…今でも男とまともに話ができるのは…幼馴染の子しかいねぇし…」
まみの手が止まり、ちょっと
「俺と話ができるのは、友人の父親…いや、事情を知っているからこそ…かな」
「ちょっとは…怖い。けど、ちさがあんたと話が出来たように…あたしも…良く分からないけど、安心できるっていうか…」
「俺はイクメンだったからな。自慢じゃあないが母性本能が普通の男よりも強いのかもしれんぞ」
「なんだよそれ…でも、それっていいよな。あたしには…父親がいねぇし…」
「父親に…飢えているのかもしれんな」
「そう…かもね。あんたとなら…あたしも…キス…できるかな」
「そいつは…幼馴染に取っておくんだな…。俺は小説家だ。幼馴染の男女が惹かれあわない事は無い!…括弧イケメンと美女に限る!だ」
「なんだよ…それ。あたしは一度フラれてるんだぞ?」
「それでもだ…もしかしたら、ちょっと鈍いのかもしれんぞ?」
「そう…かな?」
「お互いに思春期って事だ。そのうち、君への想いに気づく時が来る。まぁ俺の勝手な想像だけどな」
「ありがとな。ちょっと、楽になった…かな」
まみは司の言葉に、心臓の高鳴りを感じた。
「俺に惚れるなよ?ちさが嫉妬するか…」
「惚れねぇよ。」
調子に乗った司に被せるように、まみは全力で断ったのでした。
「さて、いただきます」
『いただきます』
芳醇なスパイスの香りが、辺りを包み込む。
「やっぱり、キャンプと言えばカレーかバーベキューだわ。」
「ごめんなさい。時間あったらもっと作れたのに…」
ちさとはそう言って落ち込んだ。
「だっ、大丈夫。今日はまだ金曜日よ。」
「そうだよ。カレーだってめっちゃ美味かったよ」
2人はそう言ってちさとを励ました。その後、夕飯を食べ終わると、食器類を綺麗に洗い、そこでまみが気が付く。
「なぁ、ここって…お風呂とかどうするんだ?」
ゆあはキャンピングカーの奥を覗き込む。
「やっぱりここでシャワーを浴びるの?」
すると、司が二人の会話に割って入る。
「そんなわけない。確かにキャンピングカーでシャワーを浴びる事はできるが、プール脇にシャワー兼露天風呂を用意してある。」
自慢気に語る司は、少しだけ焦っていた。
「だが…まぁ待て。今、火入れして来る」
「あの設備があって、お風呂だけ手動か!?」
「薪風呂に憧れてたんだよ」
と司は言う。
「シャワーは温水出るのに、露天風呂は薪とか、草生える」
「なんかまみさん、パパといつの間にこんな話すようになったのかな」
ちさとは、仲良く話すまみに、少し心がズキズキしていた。
「いいだろ?なぁ、早く入ろうよ」
「分かった。今行くから…、湧いたら知らせる」
司は、キャンプ用のライトを片手にお湯を沸かしに向かった。
「ん?ちさちゃん…どうしたの?そんな怖い顔して…」
「え…?」
そうゆあに言われて、ちさとは慌てて顔を整える。
「もしかしてぇ~私に嫉妬したぁ?」
「ち…ちが…違い…ます…たぶん…」
ちさとは、まみの鋭いツッコミに動揺を隠せなかった。すると…。
【ふふふ、ちさちゃんってば、ホント分かりやすいわね】
「ひっ!」
二人には見えていないが、優希が突然ちさとの前に現れる。あまりに唐突すぎる出現に、ちさとは思わず変な声で驚いた。
「ちさちゃん?」
「な…なんだよ急に、幽霊でも出たのか?」
まみは冗談のつもりで言ったのだが、ちさとにとっては本当の事で、二人に見えていない事が救いだった。
「あ…あのね…。よ…夜だから、怖い話…とか、話していいかな?」
「な…なんだよ急に、やめろよちさ」
自分で幽霊と言う発言をしていたまみが、少し顔を
(ふふふ。本当の事だけど見えてないから大丈夫…よね)
「実は私…見ちゃったんです。」
「え?見ちゃったって…何?怖いよ」
ちさとはちょっとだけ怖い顔を演出してみる。その顔に、まみは急に怖くなり、ゆあの腕にしがみついた。
「ちょ…まみさん自分で振っておいて、実は幽霊とか怖いの?」
「わ…悪いか?」
「実はね…。」
ちさとはゆっくりと話を続ける。
「私がパパのお家に初めて来た日にね…。」
「パパの家って、あの家か…?」
「そう、夜中にトイレに行きたくなって…。気が付いたらお仏壇の近くにいたの」
「ぉぃぉぃ…それってマジかよ」
「うん…そしたらね…。声が…聞こえるの…。」
「なななな。ええええ?」
まみの、ゆあの腕を掴む力が強くなる。
「そこにはね…パパの元奥さん…2年前に亡くなった奥さんが眠ってたの…」
「な…なんて…聞こえた…んだ?」
「こんばんわぁぁぁぁぁって聞こえたの」
「きゃああああ」
「ちょっと、まみさん痛いってそんなに強く掴まないでよ。ってか落ち着いてよ。幽霊がご丁寧に挨拶から始まるの?」
「そんなのどーでもいいって、ちさ、それホントの話なのか?」
ちさとは小さく頷く。
「うん…本当だよ。私、自分でも知らなかったけど…見えちゃう体質なのかも…それでねぇぇぇぇ実はぁぁぁぁ。この車の中にも…その人がいるんだぞぉぉぉ」
「嘘でしょ?マジで?ねぇ怖いんだけどそれ」
すると、ちさとは車内の棚を開けると…そこには、位牌が入っていた。
「ええええ?それ、位牌じゃん。なんで?なんで?」
かなり動揺しているまみ。
「私ね…、パパの奥さんとお話ができるようになっちゃったの。だから、こうして位牌を持って、いつも移動しているの…もちろん、呪われたとか、嫉妬してるとか、そんなんじゃないの。凄く優しい奥さんでね。私の花嫁修業とかもしてくれているの~」
「いや、なんでやね~んってちょっと関西風のノリになっちまうじゃないか」
まみの顔が、さっきまでの怖い顔から、少し笑顔へ戻ったように二人は感じた。
「結局、その奥さんは…ちさちゃんに何が言いたかったの?」
「ん~私とパパが一緒に居れるお手伝い?」
「それ、逆に怖くね?別れたら呪われそうな…。」
「私は…司さんが…好きです。別れるなんて嫌。だから…それは無いと思います。」
と、まみに触発されて、ちさとは思わず本音を吐露してしまう。
【ちさとちゃん…。】
優希も、一切迷いの無いちさとの瞳に、思わずため息(死んでるけど)が出てしまう。
「もしかして…ちさ…、あたしに嫉妬して仕返しのつもりだった!?」
「ってまみさん…今頃気づいたの!?」
まみは急に冷静になり、頭に手を当てて言う。
「ってか、ちさ。あたしはアンタのパパをどうこうする気は無かったよ?むしろ、ちさが惚れた理由が分かったってだけ。」
「そうなんですか?」
ちさとの顔が、不敵な笑みから解放される。
「あたしには、幼馴染がいるって言ったろ?まだ振られている状態だけど、アンタのパパの言葉で、すげー励まされたっていうか。とにかく…ありがとな…。」
「まみ…さん?ん~ん。私こそごめんなさい。それと…応援してます」
まみとちさとは、硬く握手を交わす。その後、しばらくの会話が続き、司がようやく帰ってくる。
「お湯、沸いたぞ。先に入るかい?」
『はーい。』
「…?なんかあったかのか?」
「なんでもないよ。パパ。行ってきます。」
「…変なやつ…」
三人が会話しながらお風呂へ向かう姿を見て、司は思う。
(ちさも…徐々に普通の生活を取り戻しつつあるな…普通の女子校生に…)
三人が目にする露天風呂は、旅館にでもあるような本格的な石造りのお風呂でした。シャワー設備も充実しているが、常時使用するわけではないので、ボディーソープやシャンプー等は常設されていなかった。それらについてはキャンピングカーから持ち込み、三人は一日の疲れを癒していた。
「はぁ…気持ちいい~」
「ですわぁ」
「しっかし…惜しいのは…。いくら照明が点いても、その先が何も見えなくて、怖いってところよ…。」
と、まみは風呂の外側を見ないように、背中を向けて言う。
「ねぇねぇ~ちさちゃんのパパも一緒に入ればよかったのにね」
「な!!何…言ってるの。パ…パパは…男だし…その…」
「意外と積極的な発言があるんだな。ゆあ。確かに4人くらいは軽く入れる広さはあるけど、混浴ってどうなのさ」
「冗談ですよ。私も、この歳でお父さんと一緒に、お風呂なんて入ってませんしね」
ゆあはペロッと舌を出して言う。
「そ…そうです…よねぇ~はははは。」
(言えない…。パパと一緒にお風呂に入っただなんて…)
ちさとは作り笑顔で切り抜ける。
「混浴かぁ…小さい頃だったら、
「それ…聞きたい!私も弟が小学校入るくらいまでは一緒だったし、まみはどうだったの?」
「あ~ん~。小学校2年くらい…かな。さすがにそれ以上は無かったけど、家が近くだったし、子供用のプールとかでも一緒に遊ぶ事が多かったから、ちさはどうなのさ」
「わ…私!?」
いきなり話題を振られてドキッとするちさと。
「ん~。私は…本当のパパを写真1枚でしか知らないから…。お風呂に入るなんてシャワーを浴びるくらい…だったかな」
「じゃあ…ちさはこれくらい大きなお風呂は初めてって事か?」
「ん~かも…。パパの家で…初めてシャワー以外でお風呂を体験したから…。大きなお風呂は初めて…かな」
すると、再びまみがちさとの胸を鷲掴みにする。
「きゃああ。ま…まみさん…また。何するんですか」
「いやいや~同性同士のスキンシップって奴ぅ?あやかりたいじゃん。ちさのその放漫なお胸様に…」
「ちょっと…だから、やめなさいって…」
「いいじゃんよ~。ゆあも揉んでみなって~」
「揉みません!」
「も…揉まないんですか?」
『ええ!?』
ちさとの言葉に、二人は一瞬動きが止まる。
「い…いいの?」
「う…うん。まみさんに揉まれっぱなしは…なんかふ…不公平かなって…」
そう言われて、ゆあはちさとの正面から恐る恐る触れてみる。
「それでは…行きます…」
「ど…どうぞ…」
ポニュンと柔らかい感触が、ゆあの掌を包み込む。
「どう…でしょうか」
「す…凄い…です。お…母さんの…と、か…変わらない…くらい…です」
「だろ?中三でコレは反則だわ。高校とかになったら、もっとデカくなるんじゃね?」
「わ…分かりません。私のお母さんも…大きかったのは覚えてますので…その…遺伝…って事になるのかな」
「ちさママにも会って見たかったなぁ~。遺伝とか言われると…うちの母さんは小さいから、ちょっと凹むんだけどぉ」
「わ…私の母さんは…、ふ…普通…です」
「いやいや、普通って大きさわかんねぇし」
三人の笑い声が、露天風呂に響くが、近所に人の住む家が無いので、大きな声は暗い森の中へと吸い込まれていく。
ただ一人、司には会話が筒抜けだった。
(ったくお前ら…。いい加減にしろっつ~の)
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