チョコレートテリーヌ
黒塚
Alla caccia
凍てつくという言葉が似合う夜だった。分厚いコートを着ているのに冷気は隙間から入り込んでくる。それでも不思議と寒さは感じない。吐く息は白く、夜の闇にすうっと消えていった。それを見て少し切なくなった。
ぼやっとしていると小さい頃祖母によく言われた。でも、さすがに今みたいに歩いている場所が分からないなんてことはなかった。
ピアノの練習を終えて教室からの帰り道。それは覚えていたのだが。
タンタンタンターンタタタタ ターンタン…
携帯電話の着信音に考え事を中断させられた。いつものようにコートのポケットに手を突っ込む。
「あれ?」
どこに行ってしまったのだろうか。常時ポケットに入れてあるはずの携帯電話はいくら探してもなかった。しかし、無いということで携帯電話の着信音は別の場所から聞こえてきていることに気づく。でも、いったいどういうことだろう。落としてでもしたのだろうか。
疑問を抱えつつ音の聞こえる方に闇の中進んでいく。街灯がぽつんぽつんと規則的に並んでいる道を歩き、角を右に曲がると件の探し物はあった。しかし、それと同時に思わぬものを見てしまった私はその場で青ざめた。いや、もともと血の気はなかったに違いない。得体の知れない恐怖で歯がガチガチとなり上手く声も出なかった。
「な、な、な……なにこれ。私?」
携帯電話は白い手に収まりきつく握りしめられている。電話の画面には母からの着信があったことを告げる通知が表示されていた。
目の前に倒れている一人の人間。それは下谷響希。紛れもない私自身だった。
チョコレートテリーヌ 黒塚 @kinakomotinatto
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