第3話

「キラキラしたものが見えますね」

「また……できちゃいましたか……」

「そうですね。新しいのができていますね。でも大丈夫です。水分をたくさん取って、今のうちに排出すれば、手術は必要になりません。がんばって出して下さい」

 水守は病院にいた。引っ越し前に実家に寄った際、定期的に通院している地元の泌尿器科で検診を受けたところだった。下半身のレントゲン写真に写った白いキラキラしたものは、限りなくグレー。医師による診断は黄色信号だった。水守は尿路結石という持病をもっているのだ。

 尿路結石とは、腎臓→尿管→膀胱→尿道の間でできる結石である。体内で生成される石であるが故、俗に「賢者の石」とも揶揄される。結石は腎臓にあるうちは痛みがない場合が多い。しかし、腎臓から尿管に入った時、地面をのたうち回るくらいの激痛に襲われる。大の大人が泣きながら救急車で運ばれる場合も多い。何故なら、結石はウニのようなトゲトゲした邪悪な形をしている。そのウニが狭い尿管の中をズタズタに傷付けながら移動するのだから、その痛みが悶絶級であることは想像に難くないだろう。しかし、トゲトゲした結石の形はマンボウの稚魚形態に似ていなくもない。

 結石にはカルシウム結石(シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム)、尿酸結石などがあり、カルシウム結石になる人の割合が圧倒的に多い。シュウ酸の摂取には気を付けなければならない。シュウ酸はホウレンソウが最も含有量が多く、ブロッコリー、タケノコ、キャベツ、バナナ、お茶、紅茶、ココア、チョコレート、コーヒーなどに含まれる。カルシウムと一緒に取ることで過剰摂取を緩和できるとされている。

 結石は1cm以上になるのが発見されると、手術が必要とされる。手術には三段階のレベルがある。レベル1:ESWL(体外衝撃波破砕術)。この手術は特殊な機械で体の外から結石に向かって直接衝撃波を当て、結石を体内で砕いて排出する手術である。この手術は結石が排出されれば、その日のうちに帰ることができる。衝撃波が結石に当たっているのは実感できる。「あっ、あっ」と体の中で結石が動いているのが分かるのだ。

 レベル2:TUL(経尿道的結石破砕術)。率直に言うと、ちんこから管を入れ、その管の中にレーザーを放つ機械を入れ、結石にレーザー光線を直接当てて破壊する手術だ。ものすごい痛みが伴うため、全身麻酔を打たれる。手術室に入って意識が戻ったら病院のベッドの上だが、ちんこは管に繋がれていて、管には常に血の混じった尿が見て取れる。入院期間は三日前後。

 レベル3:PNL(経皮的結石破砕術)。腎臓内に大きな結石が作られた場合、ちんこからレーザーを入れることは不可能なため、背中に穴を空けることになる。同じく、全身麻酔を打たれた後、気が付けば病院のベッドの上だが、背中とちんこに管が繋がれている。特に背中の管が鈍い痛みを伴って寝ることが難しい。入院期間は一週間前後。

水守はこれらすべてのレベルの手術を経験していた。特にレベル3はとても辛くて、ツイッターに呟くツイートがちんこの痛みまみれになったことはご了承願いたい。フォロワーが劇的に減ったとしても、その痛みを誰かと共有せずにはいられないのである。

蘇る恐怖。医師から宣告されたキラキラ光るものはその恐怖の再来を予言するものだった。

「水……たくさん飲みます」

「はい。頑張って下さい。次は半年後くらいに検診しますか?」

「いや、定期的に見てもらえた方が安心するので、三ヵ月後でお願いします」

「わかりました。それでは次は六月下旬でどうでしょう?」

「それでお願い致します」

 次回の検診の予約も取って、やや暗い面持ちで水守は泌尿器科から出た。

「これは……もしかして、新しい職場でもイシモチって笑われるかなぁ」

 イシモチとは、テンジクダイ科の魚の通称である。○○イシモチという名前の魚が多数存在する。水守は前の職場で魚のイシモチと結石を掛けて、よくネタにされたのだった。

「まぁ、いいんだけど」

 水守は水をたくさん摂取することで頭がいっぱいになった。



Notes. 令和初の更新がマンボウよりも結石の話になってしまいました。ちょうど今、結石ぽい腹痛が続いているので仕方ないですね。


<参考文献>

http://www.do-yukai.com/medical/109.html



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天三異元号万保 海星夏輝 @manbo-hakushi

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