第2話

 もう一年、自由にマンボウの研究する機会を得た喜びは大きかった。

 光海教授とのその後のやりとりで、光海教授の運営する三保海洋大学・水圏基礎生物学研究室にポスドクとして配属されることが正式に決定した。

 実家に帰ろうかと思っていた矢先の出来事だったので、決まってからは引っ越しの準備で大忙しだった。

 三保海洋大学周辺に家探しに行き、今いる大学の研究報告書や任期切れの手続き書類を提出し、諸々の住所変更を役所で行い、二月から三月はあっという間に過ぎていった。

 引っ越しの直前、捨てると決めたテレビを見ていたら、2019年4月1日に発表される新元号の話で持ち切りだった。

「新元号は漢字二文字……マンボウぽい元号もワンチャンあるかもしれない。例えば、万宝とか。万宝とかFGOの宝具ぽくていいよね」

 新時代の到来。

 平成の世がいつまでも続くことがないことはわかっていたが、自分の人生のほとんどだった平成時代が終わるとなると何だか物寂しい気もする。普段は全くそんなことを感じなかったのに不思議だ。

「ツイッターも新元号ネタで大賑わいだな。つか、新元号は4月1日当日の朝に決定してその流れで発表されるのか。ギリギリだなぁ」

 それほど改元は重要なイベントなのだろう。前々から告知されていただけに、何だか不思議なドキドキ感があった。

「平成時代のマンボウ研究史をまとめてみるのもいいかもしれないなぁ。うん、ツイッターのネタにちょうどいいや」

 部屋が片付いていく物寂しい一人暮らしのアパートで、水守は嬉々として自分で蓄積したマンボウの文献データベースを見始めた。

 文献データベースを見ていると、平成が始まる1989年に日本の研究者が出版したマンボウの論文は非常に少ない。論文というより、簡単な報告書ばかりだ。

「お、佐藤(1989)のキカマンボウってマンボウ型のロボットか。生き物のマンボウの研究じゃないけど、ネタ的に面白いな」

 水守はマンボウと名が付く情報は網羅的に集めているので、その知識量は無駄に幅広い。

「一方、平成が終わる今年に日本の研究者が出版したマンボウの論文は……現時点では自分の論文(澤井ら,2019)だけか。これもツイッターユーザーに協力してもらった思い出深い論文だ」

 マンボウ研究の歴史を振り返りながら、水守は平成時代のマンボウ研究史をまとめていった。




Notes. いよいよ今日で平成も終わりですね。ちょっと物寂しさを感じます。


<参考文献>

・佐藤猛.1989.メカニマルの製作について.全科協ニュース,19(2): 10-11.

・澤井悦郎・瀬能宏・竹嶋徹夫.2019.神奈川県立生命の星・地球博物館に展示されていたウシマンボウの剥製標本.神奈川県立博物館研究報告(自然科学),(48): 37-42.

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