第10話 nortusa 南へ
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「なぜだ? 熊たちはなにも悪いことをしてない! 俺が熊たちに人間を食べさせたんだ!」
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「ええ……だけどここの近くの人たちが熊に食べられちゃう!」
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「たまに熊は人を食う! けどそれは自然なことだ! 強い獣が弱い獣を食う。それが自然なんだ。お前の言っていることはおかしい!」
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「だけどたくさんの人たちが熊たちに食べられるかもしれないのよ」
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「問題ない。それが自然だ」
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「でも人間は獣と違う……」
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「人間てのはひどく身勝手な生き物だな。獣は生きている。人間と同じだ。だがお前は人間は特別みたいに言っている」
少女は黙り込んだ。
"...
「……わかった……あんたの言葉が正しいのかもしれない」
やがてウェーラが魔術で熊たちを森に戻した。
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「すぐ本格的な冬がくる。そして熊たちは冬眠する。しばらく熊たちは人間を襲わない」
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「そうね……」
だがエルミシアはひどく疲れているように見えた。
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「あんたの考えた方は私と違いすぎる」
エルミシアが言った。
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「かもしれない。だからいろんなことをお前から教わりたいんだ」
少女はまたため息をついた。
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「自信ないなあ……」
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「あんたはエルミーナの尼僧だ! 運がいいはずだろう!」
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「……そうね。すぐに出発しましょう!」
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「けど……どの方角に?」
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「南!」
少女が叫んだ。
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「北は危険よ。でも南には国境がある。国境の南にたどり着けば私たちは自由よ!」
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「だけど……国境はとても遠いはず」
ウェーラが言った。
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「たぶん、三百イレム(訳注 四百五十キロ)くらいの距離がある」
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「あんた、詳しいの?」
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「本で知ったの。きて」
ウェーラが小屋に入る。
なにかを探し始める。
やがてウェーラは一枚の羊皮紙を見せた。
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「見て。地図よ」
シュルトスは地図の存在を知っている。
だが、エルミシアは地図を見たことがないようだ。
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「どこの地図?」
少女が尋ねた。
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「イオマンテの地図」
イオマンテはこの国である。
地図にはいろんな図形が描かれていた。
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「これは……文字?」
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「そう」
ウェーラがうなずいた。
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あたしは字が読めない……けど、この文字ってすごく変よ!」
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「当然でしょう!」
ウェーラが言った。
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「これは普通の文字じゃない。ネルサティア文字なのだから」
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「ネルサティア文字なら聞いたことがある。特別な文字だって」
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「そう、魔術師はみんなこの文字を知ってる。普通の文字は『セルナーダ文字』と呼ばれている。
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「けど、あたしは『セルナーダ文字』も読めないのに……」
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「見て!」
ウェーラが言った。
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「ここは……このあたり」
シュルトスは妹が指さした場所を見た。
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「そしてここが国の南の境。とても遠いの」
森や丘、そして街らしい形のたくさんの印が描かれていた。
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「イマナールはどこ?」
少女が言った。
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「ここよ」
少女は驚いたようだ。
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「でも……ここから近すぎる。何日もイマナールから旅してきたのに」
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「南の境はもっとずっと遠いから」
ウェーラがあざ笑うように言った。
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「途中にいろんな障害があるわ。もし道を使ったら捕まるから私たちは道のない場所を歩かなければならないの。たぶん、森や丘を行かなければ駄目ね。それに、今、季節は冬。雪、吹雪、たくさん危険がある……」
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「ウェーラ、本当にいまの状況がわかってるのか?」
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「わかってるわよ!」
"
「お前は女魔術師だ。『だから』俺たちはこの国から逃げなきゃならない。実際、エルミシアは自由だった。俺たちが彼女を厄介事に巻き込んだんだぞ」
"uw..."
「うう……」
ウェーラが黙り込んだ。
"umm,
「もう、問題ないわよ! あたしはエルミーナの尼僧よ! 絶対にあたしの仲間は幸運なはずよ!」
しかしシュルトスはエルミシアの笑いが引きつっていることに気づいていた。
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