第9話 ma:sun reysuzo balwos 人を食べた熊
少女が言った。
"
「シュルトス……おじいさんに別れの言葉は言った?」
"
「なんでだ?」
不思議な少女だと思った。
"
「とっくの昔にじいさんは死んだ」
"
「私が言いたいのは……あの……おじいさんのお墓に……」
"
「墓? そんなものはない」
"
「なんで?」
"
「じいさんの死体は獣たちに食われた。じいさんがそれを望んだんだ。そしてじいさんの体は大地に戻った」
"aa...
「ああ……わかったわ」
だがエルミシアは少し困惑しているようだ。
少女の考えがわからなかった。
多分、外の世界ではそれは普通ではないのだろう。
しかし今からシュルトスは外の社会の考え方に慣れなければならない。
もちろんウェーラも同じだ。
熊たちは国家魔術師たちの死体を食べ続けている。
シュルトスは馬鹿ではない。
いずれ国家魔術師たちは自分たちの仲間が熊に襲われたのではないことに気づくはずだ。
それでも時間を稼げるだろう。
とても貴重な時間だ。
ふいに、シュルトスは大事なことを思い出した。
"ummm,
「うーん、最初に俺たちは近くの村の人たちを殺さなきゃならない」
少女の顔がこわばった。
"
「なぜ? いきなり、あんた狂ったの?」
"
「いや。理由はある」
シュルトスはエルミシアに説明した。
"
「村の人たちは俺について知っている。もし生きていたら国家魔術師は彼らに尋ねるはずだ」
少女の顔が赤くなった。
怒っているらしい。
理由がわからなかった。
"
「なんで……」
"
「あんたは最低よ!」
エルミシアが叫んだ。
"
「村の人たちは関係ないでしょ!」
"
「だけど彼らを殺さないと……」
"
「あんた人間なの?」
エルミシアは言った。
"
「私の言うことを聞いて。普通の人間は関係ない人たちを殺したりしないの!」
"
「けど、お前が襲われているとき俺は山賊を殺したぞ」
"
「あれは状況が違う! 山賊が私を襲った! でもそれは悪いことよ! だけど村の人たちは悪いことをしていない!」
"hm...
「ふむ……悪い人間だけを殺していいのか」
"um...
「えっと……状況によるけどね……」
少女は少し怯えたようにシュルトスを見た。
"
「あんたは本当の獣みたい……」
シュルトスは少女が褒めていないと感じた。
"
「あんたたちはたくさんのことを人間として学ばなきゃならない。『人間の世界では』獣は生きられないのよ」
正しい、と思った。
"
「わかった。俺はお前に『人間の世界のこと』を教わりたい」
エルミシアはため息をついた。
"
「わかった。けど難しいかもね。けどこの出会いにはエルミーナ女神の意思を感じたし」
人間の世界。
シュルトスはいままで獣の世界で暮らしていたのだと思った。
獣の世界が好きだった。
しかし実際には自分は人間だとわかっていた。
獣は人と違う。
今から人として生きねばならない。
やがて熊たちが国家魔術師たちの死体を食べ終えた。
血にまみれた骨が散らばっていた。
"
「ウェーラ。この熊たちを帰せ」
シュルトスは妹に命じたが慌てたようにエルミシアが叫んだ。
"
「やめて! 思い出した! 人を食べた熊はまた人間を食べるって聞いたことがある。本当なの?」
"
「ああ。なんでだ?」
"
「わからないの? この熊たちはまた人を食べるのよ」
"
「それは自然なことだ。熊は人を食べる」
"
「駄目!」
"
「なぜだ?」
"
「あなたは人間を熊たちに食べさせた! 人を食べた熊たちは怪物みたいなものになったのよ!」
ウェーラが怒ったように言った。
"
「私が熊たちを呪文で呼び出した! 兄様は悪くない!」
その通りだ。
それでもシュルトスは妹をかばった。
"
「俺の責任だ。だがどうすればいい?」
"...
「……熊たちを殺して」
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