第8話 balwosi 熊たち
奇妙な言葉が聞こえ始めた。
ウェーラが呪文を詠唱しているらしい。
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「兄様。すぐに熊たちが来ます」
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「わかった」
シュルトスが言った。
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「ウェーラが熊たちを魔術で呼び出した。彼女は女大地魔術師なんだ。いろんな獣や植物を操れる」
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「なんで熊たちを呼び出したの?」
シュルトスが答えた。
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「熊たちが魔術師たちの死体を食べる」
殺人の証拠を消すつもりらしい。
シュルトスの考えを忌まわしく感じたのは間違いだろうか?
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「でも、この小屋があるわ。燃やさないの?」
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「駄目だ! ありえない! 小屋を燃やしたら森も燃えるかもしれない! お前はウェルシオンミリスの神罰をうけたいのか?」
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「いやよっ!"
エルミシアは驚いた。
ウェルシオンミリスは森と泉の女神である。
誰もがとても恐ろしい女神なので彼女を恐れている。
もし森を燃やしたら凄まじい神罰をうけるに違いない。
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「兄様……私たち、どうするの?」
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「もうここには住めない」
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「でも……」
ウェーラが言った。
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「私たちは外の世界を知らない。私、怖いよ」
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「国家魔術師はもっと怖いぞ」
ウェーラがまたエルミシアをにらみつける。
"
「お前が災いをもたらたしたのよ! 本当にお前はエルミーナの尼僧なの?」
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「やめろ! 彼女を侮辱するな!」
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「うっ……ごめんなさい、兄様」
だがウェーラはエルミシアには謝らない。
当然かもしれない。
少女は奇妙な音を聞いた。
なにかがここに近づいてくる。
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「大丈夫。熊だ」
エルミシアは外を見た。
黒く大きな熊の姿が見えた。
|少女は熊を見たことがなかった。
とても大きく、圧倒的に強力な獣だった。
熊が一人の魔術師の死体を食べ始める。
腹を噛んで内臓を引きずり出す。
エルミシアは目をそらした。
シュルトスとウェーラはこうした光景に慣れているらしい。
彼らの基本的な感覚は普通の人間とは異なるのだ。
兄は優れた戦士である。
そして妹は大地魔術を使える。
しかし、二人は世の中を知らない。
だから社会を知る自分が必要となる。
やはりこれはエルミーナの意思なのかもしれない。
エルミーナ女神はなにかを三人に箚せたがっているのだ。
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「偶然じゃない。これはエルミーナ女神の意思よ」
エルミシアは言った。
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「エルミーナはとても気まぐれな女神みたいだけど。私はお前の言葉を信用できない」
ウェーラはエルミシアをにらみ続けている。
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「あんたはとても勇敢な女ね。エルミーナの神罰を恐れないなんて!」
すぐにエルミシアは後悔した。
これでは女神の力でウェーラを脅しているように思えた。
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「いまは時間が大事だ」
シュルトスが言った。
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「ウェーラ。魔術の品をまとめろ。俺たちは小屋から出なきゃならない」
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「やだよ……」
ウェーラがすすり泣き始めた。
本物の幼女みたいだ。
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「やだっ! やだっ!」
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「一人だけでこの小屋に残りたいのか?」
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「やだっ! ウェーラは兄様と行く」
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「それでいい」
シュルトスは妹に微笑んだ。
だがエルミシアはシュルトスの恐れに気づいていた。
彼は少ししか外の世界を知らないのだ。
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