第7話 ya yuridres 国家魔術師
最初、エルミシアはいつも幸運に恵まれているのでこの状況が信じられなかった。
だが少女はすぐに考えを変えた。
おそらくこの奇妙な出会いにはなにか意味があるのだ。
"
「わが女神、エルミーナ。御身の幸運の力をこの男に与え給え」
エルミシアはシュルトスに法力を詠唱した。(訳注 法力は神の僧侶が使う特殊な力)
"
「なんだ?」
シュルトスは驚いたようだ。
"
「いまあんたには法力をつかったの。あんたの運はとても良いほうに変わったわ」
"
「感謝する」
突然、誰かが小屋の扉を叩いた。
"
「我々は国家魔術師だ! お前たちに訊きたいことがあるっ!」
国家魔術師。
状況は最悪だ。
しかし、エルミシアは己の幸運を信じている。
少年が床から起き上がった。
あの大剣を引き抜く。
"
「殺すつもり?」
シュルトスはエルミシアの問いにうなずいた。
少女は凄まじい恐怖を感じた。
国家魔術師を殺した者は処刑される。
例外はない。
そしてイオマンテ全体が敵になるのだ。
しかし、ウェーラは女魔術師である。
国家魔術師が正体を見逃すとは思えなかった。
やはり彼らを殺すしかないのだろう。
"
「我々は国家魔術師だ! なぜ扉を開けない!」
誰かが勝手に扉を開けた。
すぐにシュルトスの体が跳ねるように動いた。
扉を開いた男が大剣で切断される。
男の体が二つに分かれた。
上半身が冗談のように床に落ちる。
男だった物は黒いローブをまとっていた。
彼は闇魔術師に違いない。
もっとも人々に恐れられる魔術師である。
やがて大量の血が魔術師の死体から吹き出していく。
さまざまな内臓が切断面から見える。
悪夢のようだ。
たぶん魔術師には自分の体になにが起きたかわからなかっただろう。
"
「モ……モーグディス!」
モーグディスは殺された魔術師の名前に違いない。
まだ三人の魔術師がいるようだ。
一人の魔術師が混乱したように呪文を詠唱しはじめた。
だがシュルトスの動きのほうが魔術師たちよりも速い。
立て続けに魔術師たちの体を野菜みたいに切断する。
戦いはあっという間に終わった。
否、戦いではない。
一方的な虐殺である。
魔術師たちの体が血に染まった雪に転がっていた。
エルミシアは人の死には慣れている。
だが……これはあまりにも残酷すぎた。
"
「やっかいなことになった」
シュルトスが言った。
"
「これからたくさん魔術師を殺さなきゃならない」
だが少年は落ち着いていた。
"
「あんた……怖くないの?」
"
「もちろん怖い。魔術師はとても危険な敵だ」
"
「そうじゃなくて。私は別のことを言いたいのよ」
"
「なんだ?」
"
「あんたは四人の男を殺したのよ」
"
「ああ。でも敵だ。仕方なかった」
シュルトスの言葉は正しい。
"
「ウェーラのためだ。俺はあらゆる敵を殺す」
"umm..."
「うーん……」
少女は適切な言葉を考えた。
だがわからない。
なにかがシュルトスの心には欠けている。
彼の言葉は正しいのだが。
"um...
「あのね……シュルトス……人は獣とは違うのよ……」
"
「そうだな」
シュルトスは子供みたいに笑った。
"
「俺は獣を尊敬してる。獣は俺たちにとってもとても大事な存在だ。俺たちに毛皮や肉を与えてくれる。でも、あの国家魔術師たちは敵だった」
シュルトスの精神は普通の人間とは違うのかもしれない。
たいていの人間は殺人を恐れる。
シュルトスは殺人を恐れていない。
少しこの少年を恐ろしく感じた。
その心はとても幼い。
変わった育ち方が彼の精神に関係しているに違いない。
"..
「……あんたって獣みたい……」
思わずエルミシアはつぶやいた。
"
「ありがとう。俺を褒めてくれて」
少女は少しシュルトスの精神を理解した。
シュルトスの心は獣のようだ。
本当にこの出会いは幸運なのか?
だがまだエルミーナの加護を感じる。
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