第6話 rxukma ti:l 鹿のスープ
シュルトスはもう鹿の肉が煮えたことに気づいた。
"
「今は料理を食べよう」
エルミシアが嬉しそうに言った。
"ow!
「あ! いい香りね!」
シュルトスが小さな壺を取り出した。
壺には「ショス」が入っている。
料理を味付けするためにショスを使うのだ。
獣の肉や魚の肉を塩で長い時間、漬ける。
そしてさまざまな香料と香草をそれに混ぜるのだ。
たくさんのさまざまなショスがセルナーダにはある。
シュルトスはショスを鍋のお湯に入れてかき混ぜた。
鍋の湯が茶色く変わっていく。
独特の素晴らしい香りが小屋のなかに漂い始めた。
さらにシュルトスは奇妙な草を入れた。
"
「その草はなに?」
エルミシアは尋ねた。
"
「これは食べられる草だ」
やがてシュルトスは肉のスープを匙で深皿にすくった。
"
「食べてみて」
"
「あなたたちに感謝を。そして実りの神々とエルミーナ女神に感謝を」
エルミシアはスープを食べ始めた。
"
「これすごくおいしい!!」
"
「鹿の肉はまだ固い?」
"
「そんなことない! これすごい! このショスもおいしい! ちょっと変わった匂いがするけど……」
"
「ショスに熊の肉を使っているから」
"
「熊の肉?」
エルミシアの顔が驚いたようになった。
"
「そうだ。でも、熊の肉は食べたものに力を与える」
"ummm...
「ふーん……とってもおいしい! 力強い味ね! これ、気に入ったわ!」
"
「嬉しいよ」
シュルトスはこの女の子はとてもおいしそうに食べるなと思った。
シュルトスとウェーラも鹿肉のスープを食べる。
だがウェーラはひどく不機嫌だ。
たぶん、さきほどのエルミシアの自由な発言が気に食わないのだ。
だが、シュルトスは考えた。
あの言葉は正しいかもしれない。
いつまで自分たちはこっそり暮らし続けるのだ?
シュルトスはウェーラについて思った。
妹はほとんど他人と会ったことがない。
エルミシアはエルミーナの尼僧である。
あるいは良い機会なのかもしれない。
本当にエルミシアは自分たちに幸運をもたらしたのだ。
だが問題がある。
ウェーラは女魔術師だ。
もし自分たちがこの森を出れば妹は国家魔術師に捕まるかもしれない。
"
「ふー。とてもおいしかった。本当にありがとう」
エルミーナの尼僧は言った。
"
「どういたしまして。けど、お前に訊きたいことがある」
"
「なに?」
"
「ウェーラは女魔術師だ。彼女は国家魔術師じゃない。もし俺たちがこの森を出たら……」
"
「やめてよ!」
ウェーラが言った。
"
「私たちはずっとこの森で暮らすの!」
"
「でもな……」
突然、狼の咆哮が聞こえ始めた。
かなりの数である。
"
「狼?」
エルミシアが尋ねる。
"
「ああ。でも、この小屋はウェーラの魔術で狼から守られている」
"
「いえ……なにか妙よ」
ウェーラが顔をしかめた。
"
「厭な予感がする。狼はなにかと戦っているみたい……あるいは、誰かと」
"
「誰か?」
シュルトスは笑った。
"
「どんな馬鹿がこの森の奥に来るんだ?」
だが、シュルトスは顔色を変えた。
小屋の外からかすかな殺気を感じたのだ。
"
「山賊……いや。殺気の種類が普通の人間と違う」
"
「あんた、そんな違いがわかるの?」
エルミシアが驚いたように言った。
"
「ああ。まるでこれは……」
"
「魔術師!」
ウェーラが叫んだ。
"
「魔術師がいる。彼らの気配を感じる!」
"
「国家魔術師らしいな」
己の失敗を悟った。
あの山賊の死体が原因だ。
ときおり襲撃をうけて山賊を殺したことはあるがいつも死体を隠していた。
だが、さきほどはエルミシアに出会ってそれを忘れていたのだ。
"
「俺のせいだ」
そして男たちの足音が大きくなってきた。
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