もげろ首
だが、今考えるべきは彼女の心境よりも目の前の大鎌だ。さすがに、何でできているかもわからない刃物に俺が今持ちうる耐性で対抗できるとは思えない。
かといって、手段がないわけでは無い。こちとら、この体で長年戦ってきているのだ。耐性のない物との戦い方は心得ている。すなわち、耐性がつくまで可能な限り攻撃を受け続ける。炎魔将軍との戦いの中で、燃える刃耐性を身に着けた手法だ。多少のダメージをもらう覚悟さえもって臨めば、100%これで勝てる。
俺の覚悟を知ってか知らずか、遊び人は大鎌をゆっくりと構えた。左足を後ろへとひき、腰と腕を目いっぱい使って上半身を限界まで引き絞っている。その必殺の構えに、思わず冷や汗が頬をつたる。
全身を使って引き絞ったその上体が、放たれたとき、振るわれる大鎌は間違いなく俺の体を両断することだろう。多少のダメージでは到底済まない。もらえば、一撃で絶命すること間違いなしだ。
「初めて会ったとき、俺に元騎士だって言ったよな。あれは嘘だったのか?」
俺は、時間が欲しかった。少しでも時間を稼ぎ、次の手を考えなければならなかった。
場繋ぎ的な質問を飛ばしたのは、そうした狙いがあってのものだった。
「魔王に仕える騎士だったのよ。嘘はついてない」
「暗黒騎士だったのかよ。魔族だってのも聞いてなかったぞ」
「……言うタイミングを逃しちゃったのよ」
ダメだ。まったく、対策が思いつかない。
これは、覚悟を決めるべき時なのかもしれない。ダメージをもらう覚悟ではなく、死ぬ覚悟を。
じんわりと額に滲んだ汗を、腕で拭う。
大きく息を吐きだし、目の前の可憐な少女をにらみつける。
「お願いだから……絶対に避けて」
片膝をつき、前傾姿勢をとる。膝とつま先に、全神経を集中し力を籠める。あとは、死ぬ覚悟だけだ。
覚悟を決めるまで、そう時間はかからなかった。
籠められた力を、まるで爆発させるかのように一気に解き放つ。雑念を全て取り払い、ただ前に進むことだけを考え地面を蹴る。彼女にたどり着くまで、ただの一歩も無駄にできない。全ての歩みに、ありったけの力を籠め、俺は加速していく。
遊び人が、俺との間合いを図り大鎌を振るう。遠心力によって浮き上がった刃が、月明かりに晒される。
脇腹に重い衝撃が走った。肋骨のいくつかが砕かれ、メキメキと不快な音を鳴らす。肉が弾け、痛みに顔が歪む。
俺の勝ちだ。
俺は既に、遊び人の間合いの内側へと入り込んでいた。脇腹にめり込んでいるのは、大鎌の柄。たとえ圧倒的な力で振るわれようと、柄では俺を両断できまい。だが、大鎌はその速度を緩めることなく俺の体ごと振りぬいてくる。
せっかく間合いに入ったのだ、吹き飛ばされてはたまらないと俺は彼女の肩をつかむ。俺の体は、つかんだ彼女の肩腕を軸に時計回りに回転した。彼女の背後に到達した俺は、その腕を彼女の首に巻き付けた。
結局のところ、彼女を傷つけずに倒すにはこれしか方法はないのだ。俺は、彼女の首に回した腕にグッと力をいれた。
「やめて! 勇者!」
彼女は大鎌を手放し、全力で俺の腕をほどきにかかってきた。その細い腕に見合わない強大な力が、彼女が間違いなく魔族であることを如実に語っている。だが、こちらも負けじと渾身の力で首を絞める。
「キミを傷つけたくないんだ。しばらく眠ってくれ!」
「いや! いや! いやああああああああああ!」
ぶちっ。何処からともなく、糸が引きちぎれるような音が届く。以前、自分で繕ったズボンの穴だろうか。だが、この状況下でそんなこと気にしていられない。
ぶちっぶちぶちっ。
「きゃああああああ……あっ……」
唐突に、彼女の悲鳴がとまった。
彼女の体が、前のめりに倒れる。俺は、その姿を呆然と眺めていた。
思わず、俺は彼女の頭をギュッと抱きしめる。そう。倒れた体をよそに、彼女の頭は俺の腕に抱かれたままだった。
あの、ぶちぶちという気味の悪い音は。糸や布ではなく、肉が、……皮が引きちぎれる音だったのだ。
俺は、彼女の頭を、その体から、ちぎり取ってしまっていた。
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