第2話 カナデ(奏)の章① 〜シマリスココと巨大架空ゲームSSS〜

たっだいまー


しんとした一軒家に一人の少女が帰宅する。


本当は今日は学校でこんなことがあったとか、聞いて欲しいんやけどな…


少女はいつも通り学校のカバンを放り出して靴を脱いで玄関にあがる。脱いだ靴は両方ともあさっての方向を向いてひっくり返っている。


お腹ぺっこぺこ


仕事で家にいないお母さんがいつも通り、食卓の上に冷凍食品の詰め合わせの晩御飯をお皿に入れてラップをかけた上に


カナデ、温めて食べてね


と走り書きのメモを置いてくれてる。


カナデは冷めたチキンナゲットを左手でつかんでもぐもぐしながら、台所に移動しお皿を電子レンジに入れる。


昨日録画した番組、みーようっと


リモコンでテレビの電源を入れる。


タイミング良くというかたまたま孤食、個食についての番組が配信されてるのをみて、カナデは心に空虚感が漂う。


なんよ…心の傷口に塩塗りたくらないでよねっ


せっかくの気分転換が台無しだ。飲んでた麦茶をテレビの画面にぶっかけたくなったのをぐっと堪えて、録画していた映像を流す。赤髪の売れっ子歌手が飛び跳ねてオーディエンスを沸かしている。

さっきの孤食【個食】のコメンテーターの発言が頭の中をずーんと重く巡り、楽しいはずの映像が頭あまりに入ってこない。


晩御飯を胃にいれると、階段をたたたと駆け上がり、二階の自分の部屋にイン。


おっかえりーー!


身体全体でカナデの帰還を喜ぶ雌のシマリス、ココがカナデの身体をぴょこぴょこすばしこく木登りをする。


「ココ、たっだいまー」


あははと笑いながら

お腹すいたよ!

って顔をスリスリしてくるココにカナデは木の実をもみじのような手のひらにいっぱいにしてたくさんあげる。

ココはかかかかかっかかかかっと、目に見えないくらい程ものすごい速さで木の実の殻を器用に外し、中の実を頬袋につめこんではちきれんばかりであるのに、まだまだもぐもぐ。あまりにもつめこんでパンクしそうだというときに、口からぽろっと入りきらない木の実が落ちる。


カナデはそんな自由気ままなココの姿をみて、ぷっと吹き出しココのに頭を撫でる。ココは頬袋パンパンのまま、いつもの定位置、カナデの肩にちょこんと座る。カナデはココが落っこちないように気をつけながらゆるい部屋着に着替える。


さぁてと


パソコンの前に座るとカタカタとキーボードをブラインドタッチする。

PC画面が暗証番号の入力を求めてくる。

27桁の暗証番号のキーをタッタッタッとスマートに打ち込む。

するとPC画面に


!!Entry Success!!


と表示がでて、バァン!!と扉が開く。


1は点。

2は線。

3でやっと図形【トライアングル】が描ける。

27は3【トライアングル】の3【トライアングル】乗。

27をバラした数字、2と7を足すと9。


9=3+3+3


3【トライアングル】はピラミッド【神聖/王/神/シンメトリー】の象徴。


数覚。

にっとカナデはにんまりいい笑顔。


カナデはとあるソーシャルゲームの管理人をしていた。カナデは大阪市北区梅田にある専門学校に通っている13歳だ。クラスは結構男子率高め、デザイン系のクラスは女子率高めである。


カナデのあどけない可愛らしい顔とどんくさいところが、男子率高めのクラスで浮いていた。思春期の女子たちが自分を後ろ指さしてヒソヒソ陰口というかいっつも話題にしてる。


べっつにいいじゃん、女子がゲームとかプログラミング系のことに興味あっても

なんで外見ばっかみんな言うんやろね


今年卒業する任天堂に就職するユウヤ先輩だけが話しかけてくれる。

いつも独りぼっちだったけど、授業の課題でいつも金賞だったから、通っていても まぁこのままでいいや と流されるままに身を任せていた。

カナデは父親がプログラマーエンジニアの技術者であるのが功を奏し、HTML、JavaScriptは小学生の時に理解してしまい、ハッキングの技術も知らぬ間に習得してしまっていた。

だから、自分でキャラクターを作り、キャラクター達が闘うための武器や魔法、設定などを考えるとソーシャルゲームはあっという間に簡単に作れた。


カナデのハンドルネームは♯シャープだ。

♭ フラット というハンドルネームでゲームの中で共にモンスターや悪者と闘う戦士【仲間】と、後でリアルに出逢うとはこの時カナデは予想もしなかった。

ヴァーチャルの世界の中で、浮遊する私たち。

リアルにどこか繋ぎとめたくても荒波に流され、嵐に吹き飛ばされそうだ。ネット世界が、そんなただただ流れゆく毎日の生きてる証だったり、だんだん自分にとってなくてはならないものになってゆくのに怖いという感情を抱きながらもやめられなくなる。


廃人だな


カナデは苦笑した。


《ソラのハンドルネームは♭フラット》


SSSはゲームをしながら、チャットのようなものが連動してできるようなプログラムになっている。

始めての仲間のハンドルネームが♭フラットだった。


♭は半音下げる記号。


「ネガティブな子やなぁ。戦車や軍隊行進の社会主義国家ロシアの曲みたいなお通夜コードなるやん。んじゃ私は半音上げる記号♯。私の奏でるメロディーは明るいよ」


「お通夜コードってそりゃひどいよ。ロシアの偉大な音楽家に失礼だよキミ。♭がないと切なかったり儚い曲は創れないよ。必要なものだよ」

♭がいう。


確かになぁ



私の名前はたくさんの音色【otonokouzui】という『彩』で人生が虹色に染まる【paint rainbow】ようにと、お母さんとお父さんが一生懸命二人で考えて考えてできた名前。


カナデはt.A.T.uのNot gonna get usをBGMで鼓膜が震えるほどの爆音で部屋に流す。


画面の向こう、液晶の向こうの存在を確かめ合うことで、お互いの寂しさを紛らわせ、独り【孤独】を必死に私たちは埋め合わせあっていた。


SSSのゲームの中のハンドルネームははじめ寄り集まった人間はみんな音楽記号だった。

オクターブ、二分音符、八分音符、16分音符、スタッカート、ビブラート、それからワブルベースとかジャングル、ドラムンベース、アタック、キック、リバーブ、リリース、ディレイ、コンプレッサー、リミッターなどなど音楽関係のシュールな名前のハンドルネーム者達も続々登場し、『18906』や『log2』など数字に関係するハンドルネーム者が今度は集まってきた。

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