みーちゃんとビー玉
新月
第1話
机の上にランドセルを放る。
フタが開いて、教科書と一緒に何かが飛び出た。
コロコロ転がってぼくの足下へやってきた、チラチラ光る、それは白いビー玉。
いくら探しても見つからなかったのに、どうしてこんなところから出てきたんだろう。
ビー玉を差し出す、黒い髪の女の子が頭に浮かぶ。
みーちゃん。白いビー玉は、みーちゃんがぼくにくれたもの。
みーちゃんはぼくと同じ幼稚園に通ってた、同い年の女の子。
ぼくとみーちゃんはいつも一緒。幼稚園でも、帰ってからも。怖がりなみーちゃんは、いつもぼくの手を握ってた。
ある日迎えに来たお母さんの腕に、灰色のモコモコがついていた。
ホコリみたいな、綿みたいな、灰色のモコモコ。
「お母さん、ホコリついてるよ」
手を伸ばすと、みーちゃんがぼくを引っ張った。
お母さんは不思議そうに腕をはたく。モコモコはついたままだった。
モコモコはどんどん増えていく。
お父さん、近所のおばさん、幼稚園の先生。みーちゃん以外の友達。みんなにモコモコがついていく。
みーちゃんは怖がって、モコモコには近付かない。
ぼくらはずっと手を繋いでた。ぼくとみーちゃんにだけは、モコモコがつかない。
モコモコがついて、みんな灰色。
モコモコはどんどん大きくなって、みんなもどんどん大きくなる。
お家くらいに、お山くらいに、お空に届くまで大きくなった。
お日様がかくれて、ずーっとくもり。みーちゃんはよくお空を見上げてた。
「みーちゃん、お日様あげる」
首をかしげるみーちゃんの手に、赤いビー玉をのせた。
お日様みたいな、赤いビー玉。
喜んでくれるか、不安だったけど、みーちゃんは笑った。
「お日様がでたから、明るくなるね」
みーちゃんは砂場に穴を掘って、赤いビー玉を入れた。
「ほら、明るくなるよ」
すると灰色の人達がやって来て、どんどん穴に吸いこまれていった。
灰色の人達がいなくなって、残っているのはぼくとみーちゃんだけ。
ぼくらは2人、砂場で遊んだ。
スコップで砂を集めてお山を作る。みーちゃんはあっちから、ぼくはこっちから、お山にトンネルをほっていく。
ぼくの手が、トンネルの中で、みーちゃんの手に触れた。
そしたらビー玉を入れた穴がぶるぶる震えて、灰色の人達を吐き出した。モコモコがとれて、みんなもとに戻ってた。
穴の中には黒いビー玉が残ってる。みーちゃんは拾って、ポッケに入れた。
幼稚園を卒業するとき、みーちゃんはぼくにビー玉をくれた。光に当てるとチラチラ光る、白いビー玉。
みーちゃんはほくとはちがうところへ行くんだって言ってた。
みーちゃんからもらった白いビー玉。
なくさないように、机の引き出しに入れておいたのに、小学校に入ったらなくなってた。
引き出し全部うら返して、ゆすってみたのに見つからない。お母さんにもきいたけど、知らないって言われた。
ランドセルから出てきた、みーちゃんのビー玉。
どうしてこんなところにあるんだろう。入れたはずないのに。
手の平でコロコロ転がすと、灰色の影がちらっと映って、すぐ消えた。
みーちゃんとビー玉 新月 @shinngetu
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