少し昔話を。『ありがとう』
軍人だった頃、俺には何が楽しくて、嬉しいのか分からなかった。軍人も好きでしていた訳でもない。むしろ、嫌だった。
何故、毎日人殺し紛いなものをやったりしないといけない?───それが国の方針なら従うしかない。それが平民だ。
平民は上には逆らえない。だから、黙って言う事を聞く─────どうして、人は上に立ちたがるのだろう。そして、権力を使って至福を満たそうする。
それが、人間の心理なのかもしれない。上に立ちたがり自分が思う様に動かせる。
くそタレ。俺らはお前らの玩具なんかじゃねぇ。
俺が軍人時代ずっと持っていた感情──でも、クーデターを起こす気にはなれなかった。それは『国』という絶対権力の前には勝てないからだ。もし、勝てるのであらば────
俺はどうしていただろうな。もしかしたらという場合もあるが、今は多分はっきり言える。
大切な人だけを守れればそれだけで良い。それに危害を加えるものから守れればそれだけで十分だと。
「レーシア、その」
「はい、どうかしました?」
あまり喋るのは得意じゃないから、レーシアに自分の気持ちもどう伝えたら良いか分からない。プロポーズの時も緊張し過ぎてまともに喋れなかった。今では苦い思い出だ。
「ありがとう」
「いえいえ、レークもお仕事お疲れ様です」
違う。この『ありがとう』はそっちのお礼じゃない。まぁ、何時も家で頑張ってくれてるからそのお礼として受け取ってくれても良いけど。
まぁ、良いか。何でも。レーシアが笑顔をなら。
口下手で強面で、あまりレーシアにしてあげれる事がないこんな俺を好きになってくれてありがとう。
軍人を辞めて定時帰宅を目指します 南河原 候 @sgrkou
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