DODICI
午前の授業が終わるとリズとワタシは校内のカフェテリアに向かった。 さすが貴族の子息子女を預かる学園だけあって、中は天井も高くゆったりとした空間で、テーブル同士の距離は十分離れ、落ち着いて食事ができるように配慮されているわ。 シェフは元王宮で働いていた人を料理長に、腕のある優秀な人材がそろっているのよ。 メニューも豊富で味も最高! ビバ!王立学園カフェテリア!
中に入ると先に来て、場所を確保してくれていたアイオスが手を振っている。 隣に座ると早速とばかりに席を立って料理を取りに行った。 戻ってきた時の顔ったら‥‥ 鼻歌でも歌い出しそうなくらいゴキゲンだったわ。 手に持っているプレートの上には山盛りのステーキ‥‥ やだ、ちょっとあり得ないわ。 うぷっ‥‥。
「アイオス‥‥ 肉ばっかりじゃないか。 ちゃんとバランス良く取らないと強くなれないぞ。」
「いいんだよ。 俺は十分強いし、草とか根っこなんか食うより肉食えばそのまま身になるだろ。」
「その間違った知識は一体誰から学んだんだい? ‥‥まあいいや、じゃあ今度の騎士教育の時に僕とどっちが強いか勝負しようじゃないか。」
この学園は基本クラス毎だけど、週2回男子は騎士教育、女子は淑女教育の授業があるのよ。 この授業は学年単位でやるからアイオスとも一緒ってわけ。
「おっ、勝負か!? いいぜいいぜーっ 俺が勝ったらスイーツ山盛りな!」
「スイーツ山盛り‥‥ まあいいや、その代わり僕が勝ったら野菜料理を食べてもらうよ?」
まあ脳筋に負けるつもりはないからメニュー考えておかないとね。 ふっ、覚悟しなさいよアイオス! ワタシの渾身の野菜料理に感動の涙を流すがいいわっ!
ニヤリと悪い顔してアイオス得しかない賭けをしていると、さっきまであちこちから聞こえていた話し声や笑い声が止まって、辺りが急に静かになった。 何があったのかと振り向くと、そこにはジェラルドがヒロインちゃんの腰に手をまわして仲良さげに歩いてきたわ。 はぁ~‥‥ あの馬鹿王子‥‥ もう隠す気もないのね。 聞こえてくる鼻につく少し甘ったるい話し方なのはヒロインちゃんだわ。
「ジェラルドさまお腹すきましたねぇ、早く座りましょう~?」
「ふふ… そうだな。 アンジェは何が食べたい?」
「えーと.... アンジェはスペシャルランチが食べたいですっ」
「‥‥聞いていたな? アンジェと私の分のスペシャルランチを個室に届けてくれ。」
二人の世界に入ってしまっているジェラルドとヒロインちゃんは周りの事なんか目に入ってないようで、当然少し離れた場所にいたワタシ達にも全く気が付いてなかったわ。 (見つかると何かとめんどうだからよかったぁ)
侍従にランチを取りに行かせジェラルド達が個室へ移動すると、辺りのざわめきが戻ってきた。 それと同時にこちらに視線を寄越してひそひそと語り合う輩も何人か‥‥ ああ、リズを見てるのね。
「リズ‥‥」
そう言ってリズの様子を伺うとリズは顔をこちらに向けて微笑んだ。
「‥‥大丈夫よ。 ジェラルド様の事は婚約者として、将来この国を共に支えるパートナーですけど、誰かを心からお慕いする事をわたくしにどうすることもできませんもの。 彼の心をも掴みきれなかったのはわたくしの落ち度。 ですけど‥‥ あの方、アンジェリカ様はあのままにはしておけませんわね‥‥。」
あれ‥‥ あれ? 気のせいかしら‥‥ リズから聞き捨てならないセリフがでたような? 悪役令嬢になるフラグはへし折ったつもりだったけど、もしかしてまだあるの‥‥?
「あの方のマナーの無さをなんとかして差し上げなければ。 貴族令嬢としてありえないですわ!」
あ、あーー! ‥‥リズはそれを気にしてるのね!? 自分がどんな風に見られてるとか、婚約者として馬鹿にされてるとか、そんな事微塵も考えてないのね‥‥。 そ、そうよね‥‥ この子こう見えて天然系だったわ‥‥。 天然癒し系美少女とかなにそれ天使かよ。
「ん‥‥ リズ‥‥ ほどほどにね?」
「なあなあ、エリザベス嬢。 俺よくわかんねぇんだけど‥‥ 婚約者と親しくしてる女がいるのって嫌じゃねえの?」
アイオス‥‥ アンタそれ聞いちゃうの!? ちょっと切り込みすぎじゃない!? まったくこれだからノウキンは‥‥!
「え? ええ。 わたくしは物心つく前、生まれた時にはもう婚約が決まってましたから、正直申し上げてお慕いするという気持ちがどういうものか分からないのです。 ですから、ジェラルド様がアンジェリカ様と親しくされていて嫌かと言われましても‥‥ 」
「ふーん、そんなもんかねぇ。 俺はあのアンジェリカって女、なんか苦手なんだよな。 だから殿下にまとわりつかれんの嫌だわ。」
それに関してはアイオスに同意だわ。 殿下に呼ばれたらもれなくヒロインちゃんがついてくるなんて、それなんて罰ゲームよ。
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数日後の騎士教育の授業の日。 宣言通り剣術演習のパートナーをアイオスにしてもらい、訓練という名の勝負を始めた。 当然同学年男子全員が見守る中よ。 あら、女子も2階の廊下から見てるわ‥‥。 淑女教育の授業はいいのかしらね?
パワーで言えば、幼い頃から近衛騎士団の団長である父親に直接指南をうけているアイオスの方が上だけど、でもね、戦いは力だけじゃだめなのよ。 隙をわざと作ってやれば単純なアイオスはまっすぐ向かってくる。 アイオスの視線を他に向けてやれば簡単に後ろが取れるわ。 え、普通そんなに簡単にいかないって? 大丈夫よ、そこはこのワタシだもの。 何合か斬り結び、再びアイオスが突っ込んできたところを華麗に避けて足をかけてやれば派手に転んでくれたわ。 アイオスの剣を踏みつけて、喉元に剣を突き出せばワタシの勝利よ。
「きったねーぞ、エド! 正々堂々やり合えよ!」
「正々堂々なんて実戦じゃなんの役にも立たないぞ、アイオス。 潔く負けを認めなよ。」
「くっそーー! 俺の山盛りスイーツがぁああ!」
「ふふ。スイーツと同じくらいおいしい料理だしてやるから感謝するんだな。」
「はぁ~‥‥ 素敵よね‥‥。」
2階から覗いていた人影がうっとりと呟く。
「やっぱりエリザベスは邪魔ね。 悪役令嬢は悪役令嬢らしく退場してもらわなきゃね‥‥ ふふふ。」
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何を作ったかは次回閑話として載せれたらいいなー。 メニューは決まってるんですけどね。
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