UNDICI

寮の部屋に戻ったワタシはさっそくお茶会用のスイーツ作りを始めた。 今日はガレット・デ・ロアよ。 フランジパーヌ(アーモンドクリーム)の入ったパイの中にフェーヴと言われる陶器製の小さな人形を1つ入れて、紙で作った王冠を載せたスイーツなの。


フェーヴに当たった人は1年間幸運が訪れるって言う縁起物よ。 今日はフェーヴの代わりに丸ごと1個のローストアーモンドを入れて、全部食べられる様にしたわ。


ガレット・デ・ロアを作る間に、ジョージにリズとアイオスへお茶会の場所と時間を知らせるメッセージを届けてもらう。 アイオスだけならワタシの部屋でもいいんだけど、リズもいるから寮1階のプライベートサロンにすることにしたの。 プライベートサロンは予約が必要だから、それもジョージにお願いしておいたわ。



パイが焼きあがってケーキクーラーで冷まそうとした時、ジョージが戻ってきたんだけど‥‥ 後ろにいた人物が、ずずいとジョージの前に移動して、半眼になりながらワタシを見た。


「エドナーシュ、入学祝で茶会をするそうだな。 なぜ私も呼ばない?」


はぁああんっ、なんでバレたのよー! ジョージ、アンタなの?! って目線でジョージを咎めたら静かに首を横に振って、自分じゃないアピールしたわよ、この子! 


「ご機嫌麗しゅう、ジェラルド殿下。 身内だけの本当に小さな茶会ですので、お忙しい殿下を煩わせるわけにはまいりませんから。」


言外に「お茶会とか言ってる場合じゃないでしょ?! 勉強とか勉強とか、あと勉強とか公務があるでしょ!」と言う気持ちを込めてみるけど、多分通じてないわね。 


「大丈夫だ、時間ならある。」


ほらね?


「はぁ‥‥ 分かりました。 では1時間後に1階のプライベートサロンでお待ちしております。」




****************




えーと‥‥ 確かに(しぶしぶ)ジェラルドが来るのは了承したわ。 うん、したわよ? だけど‥‥



「初めまして! アンジェリカって言います! こんな素敵なお茶会に呼んでもらって嬉しいです~!」



呼んでない。 まったくもって呼んでないわ。 なぜアンタがここにいるのよ。 困惑で口元が引き攣りそうになるのを必死で押さえていると、しれっとジェラルドがネタバラシした。



「ここに来る途中でアンジェリカに会ってな、せっかくだから来るように誘ったのだ。」



じぇらるどおお! おまっ‥‥ お前かぁあああ!



くっ‥‥ 言いたい事はたくさんあるけど、言っても仕方ないわね‥‥。 沸きあがる怒りを精神力で抑え込み、平常心を保ったワタシはとりあえずお茶会を仕切る事にした。 まずは微笑みアルカイックスマイルを作りながら自己紹介、それからアイオスとリズの紹介をする。



「ようこそお越しくださいました、ジェラルド殿下。 そして初めましてですね、アンジェリカ嬢。(本当は会うの2回目だけど、さっきのはノーカンよ!) 僕は本日ホストを務めさせていただきます、エドナーシュ・フォン・オルベールと申します。 こちらは僕の友人のローズブレイド卿。」



手を向けて紹介すると、アイオスは立ち上がって胸に手を当てて礼を取る。



「ご機嫌麗しゅう、ジェラルド殿下。 初めまして、レディ・アンジェリカ。 アイオス・フォン・ローズブレイドと申します。」



うん、さすがは侯爵令息。 やればできる子ね! ホント、こうしていると只のイケメンなのよね。 次はリズの紹介‥‥と リズを見るとほんの一瞬だけ嫌悪の表情が見えたわ。 あー‥‥ まあそうよね‥‥ ヒロインちゃんたら礼儀がまるでなってないものね‥‥。



「こちらは同じく僕の友人でアシュレイド公爵令嬢。」



ワタシが紹介するとリズはスッと立ち上がって綺麗なカーテシーをした。



「お久しゅうございます、ジェラルド殿下。 アンジェリカ様お初にお目にかかります、エリザベス・フォン・アシュレイドでございます。」


「ああ。」



ジェラルドぉおお! 仮にも自分の婚約者に「ああ。」だけってどういう事?  それに何、そのヒロインちゃんを見る目。 リズに向けるものと全然違うじゃないの。



「えーと、エドナーシュ様、アイオス様、エリザベス様ですねっ。 アンジェリカ・フォン・アグウスです! 気軽にアンジェって呼んでください!」



スカートを両手でつまみ、小首をかしげてなんちゃってカーテシーをきゃるん☆ って感じでやるヒロインちゃんに頭痛が止まらないわ‥‥! ほらぁー リズだけじゃなく、あの!アイオスまでもが!口元が引き攣ってるわよ! 


もういい、もういいわ‥‥。 こうなったら巻で行くわよ! 



「‥‥では、皆さまのご紹介も終りましたので本日のスイーツをご用意いたします。」



ワタシはジョージに目線を‥‥ 送る前にテーブルにパイが、そして紅茶が音もなく用意されていく。 まあジョージだし、もう驚かないわ。


「今日ご用意したパイは、とある遠い国のお祝いの席で食される物で、中に1つだけ、まるごとのローストアーモンドが入っております。 そのアーモンドが当たった人は1年間幸運が訪れるという縁起物になります。 どうぞ、お召し上がりください。」


「おいしい~~! ジェラルド様! このパイ美味しいです!」


「そうか… それならばよかった。 ああ、アンジェ、顔にクリームがついているぞ」


「え、やだっ! 恥ずかしい‥‥! ジェラルド様どこについてます?!」


「ほら、ここに‥‥」



そう言いながらジェラルドが、ヒロインちゃんの口の横についたクリームを指で取って‥‥ それを自分の口で舐めたわ‥‥! それを見るヒロインちゃんの顔もみるみる真っ赤に染まっていく‥‥。 代わりにワタシ達3人の顔はみるみる青ざめていくけどね!


ほんと、ワタシ達一体なにを見せられてるのかしらね‥‥。 



すっかりワタシ達3人の気力が付きかけた時、ようやくこの茶番‥‥じゃない、お茶会はお開きとなった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――


ちなみにローストアーモンドはリズのパイに入ってました。 彼女の今後に幸あれ。

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