30 重力の底 ……きっと、私たちは地球で一番、重力の重たい場所に立っていたんだね。

 重力の底


 ……きっと、私たちは地球で一番、重力の重たい場所に立っていたんだね。


「おはよう」

 自分と同じ黒のブレザーの制服を着た同じ学校に通う生徒たちにそう言って、三枝輪廻はいつものように、朝、自分の学校に登校していた。

「おはよう」

「おはよう、輪廻」


「おはよう」

 輪廻はにこにこと笑顔で、自分に挨拶をしてくれる生徒たちに挨拶を返した。それは、今までにない、三枝輪廻の成長の証だった。


 今はまだ、友達、と呼べるような人物は輪廻には『たったひとり』(それも、あんまり真面目ではない遊び人の友達だった)しかいないのだけど、このままいけば、きっと高等部を卒業する前に、輪廻は自分が友達を何人かつくることができるだろう、と楽観的に思っていた。


「おはよう」

「おはようございます。三枝先輩」


「うん。おはよう」

 にこにことした笑顔で、同級生だけではなくて、後輩にもこうして挨拶ができる。うん。これはいい、これはすごくいい、成長の証だ。

 輪廻はご機嫌だった。

 すると、「なにひとりでにやにや笑ってるの? 気持ち悪いな」という、聞き慣れた声がした。


 そこは神社の前だった。

 桜の咲く、神社の境内のところから、のっそりと顔を出すようにして、そこには『輪廻とは違う高校の制服を着た二木林檎』が立っていた。(その林檎の着ている制服は、古風な白と水色のセーラー服だった)

「林檎こそ、なにしているのよ?」

「猫がいたんだ。だから、そいつを捕まえようと思って追いかけてた」にっこりと笑って林檎は言った。

 そんな子供っぽい、(と言うか子供そのままの)林檎の言葉を聞いて、輪廻は「ふふ。朝からなにやってるのよ。学校、遅刻するよ?」とにっこりと笑って林檎に言った。

 その笑顔は、まるで春の暖かな風のように、本当に柔らかな、笑顔だった。

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