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 一人の女子高生が(林檎はそうは言っていなかったけど、なぜか輪廻はそう思った)ホームに落ちた、事故、の言葉に引っ掛かりを感じた輪廻は駅まで全速力で走った。

 いなくなった林檎を探して、(そうしないと、本当に林檎がこの世界から、消えていなくなってしまうような気がして)輪廻は息を切らせて、全身に汗をかいて、最寄駅のホームまで、急いで、走って移動をした。


 駅の外側から、ホームが見える最寄駅。

 そこに輪廻が到着すると、……すると、そこには『林檎』がいた。


 赤色をした上下とも同じ色の全体的に、古くて、ぼろぼろになったジャージを着た、髪の毛をいつものツインテールにした二木林檎が、学校に通うために電車を利用する制服姿の学生たちの中に混ざって、そこには一人でぽつんと立っていた。(そんな場違いの場所に迷い込んでしまったような林檎は、どこかひどく悲しそうな、不安そうな顔をしていた)

 林檎は今にも、どこかに落っこちてしまいそうな、顔をして、じっと、自分の真下にあるコンクリートの製のホームの灰色の地面を(あるいは、その少し先にある、日本の鉄のレールの設置された砂利の敷き詰められた線路の上を)見ていた。


「林檎っ!!!」

 道路際から、輪廻は『悲鳴にも似たような、そんな自分に出せる全力の大声でそう林檎の名前を呼んだ』。

 すると、ざわざわとした制服をきた生徒たちに混ざって、林檎が、はっと顔をあげて、輪廻のことを、ちゃんと見つけてくれた。


 輪廻? どうして?

 そう口を動かして林檎が言ったような気がした。


「林檎!! 待ってて!! 今、すぐそっちに行くから!!! 絶対にそこで待ってて!!」

 輪廻は叫ぶと、それから駅の入り口のところまで急いで移動をした。


 そのとき、向かいの線路から、電車がやってくるのが見えた。

 その電車を見て、輪廻の心臓はどきどきした。


 ……お願い。

 間に合って。


 林檎。

 はやまった真似はしないで。

 あるいは、私のただの勘違いで、いて。


 林檎。

 お願い。

 お願いだから、もう私を『ひとりぼっちには』させないで。


 がたんごとん、と言う音を立てて、電車が線路の上を通過した。それから、キーという音がして、電車がホームに停車をした。

 その間、輪廻は定期を使って改札をくぐり、階段を上がって、ホームに移動している最中だった。

 騒ぎはなにも起こっていない。

 電車には制服を着た生徒たちが、学校に行くために大勢乗り込んでいった。

 そして、輪廻が人がいなくなったホームにやってくると、それと同時に、大勢の生徒を乗せた電車が、ホームの上から発車した。


 輪廻はホームの上にたった。

 すると、そこには一人、ぽつんとなにかに取り残されたように、ぼんやりとした表情をした、二木林檎が立っていた。


「おっす」

 林檎は輪廻の顔を見ると、にっこりと笑顔で笑ってそう言った。

 輪廻はつかつかと無言のまま、林檎の前まで歩いていくと、そのまま、思いっきり、林檎の左ほほを、自分の右の手のひらで、……ひっぱたいた。


 ぱん! 

 と言うとても乾いた音がした。


 それから、林檎がなにも反応する前に、輪廻は林檎の体にしっかりと、ぎゅっと抱きついた。

 そして輪廻は「どうして勝手にいなくなっちゃうのよ!! ……私たち、……『もう友達』でしょ!?」と泣きながら、とても大きな声で林檎に言った。


 最寄り駅、にて


 林檎は無言。

 駅のホームに残っていた数人の人たちが、ホームの端っこで抱き合ってる輪廻と林檎のことをなにがあったんだろう? と少し不思議そうな顔で見つめていた。

 輪廻はずっと、うっうっ……、と言って、林檎のことを抱きしめながら泣いている。


 それからしばらくして、「……ごめんなさい」と林檎は言った。

 輪廻が顔をあげて林檎を見ると、林檎もやっぱり、輪廻と同じように、その目に(まるで小さな子供みたいに)涙をいっぱいにためて、輪廻のことをじっと見ていた。その林檎の涙が、瞳から溢れて、灰色のホームの上に落っこちた。

 それを合図にするようにして、二木林檎は輪廻の腕の中で、「……ごめん。本当にごめんなさい!」と言って、わんわんと大きな声で泣き始めた。

 輪廻も、ずっと泣いていた。

 二人はそれから、駅員さんが二人の様子を見に来るまでの間、ずっとそうして、泣き続けていた。

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