27
死、と言う言葉が、輪廻の頭の中に引っかかった。
それから、もう一度、輪廻は恐る恐る、林檎の残したメッセージを見た。
……ばいばい。
どくん、と輪廻の鼓動が高鳴った。
……林檎。
林檎?
輪廻は急いで、ベランダに駆け寄ると、(鍵がかかっていたので、ないとは思ったけど)鍵を開けて、ベランダに出て、そこからマンションの下を見渡した。
でも、そこに、輪廻の予想した『真っ赤な色をした林檎の姿』はどこにもなかった
林檎。
「林檎!!」
輪廻はカバンを手に取ると、(そこには財布と定期とスマートフォンが入っていた)急いで、自分の部屋を駆け足で飛び出していった。
輪廻は必死に走った。
もう周りのことも、学校のことも、自分のことも、なにも考えることができなかった。輪廻が考えているのは、二木林檎、ただ一人だけのことだった。
輪廻は必死で林檎を探した。
輪廻は必死で、林檎の着ている赤い上下のジャージ姿の人間を探した。でも、そんな人、輪廻の家の近くにはどこにもいなかった。
輪廻は林檎の暮らしていた公園に行き(そこに林檎はもういなかった)それから、近くの神社の境内に行き(そこにも、林檎はいなかった)それから、街の繁華街の中を一人で必死に駆け抜けた。
林檎、林檎。
輪廻はずっと、心の中でそう叫んでいた。
雨の中を、必死で輪廻から逃げるようにして、駆け出していく林檎。
「逃げんな!!」
そんな林檎の背中に輪廻はそう力一杯大声で叫んだ。でも、林檎はなにも返事をしてくれなかった。
輪廻は走った。
そして、ついに、自分の前を走って逃げている林檎の、その真っ白で冷たい(まるで幽霊みたいな、……縁起でもない)林檎の手を輪廻はしっかりと捕まえた。
でも、林檎は輪廻をほうを振り返ると、その林檎にはなぜか顔がなくなっていた。
それは『顔のない林檎』だった。
それから林檎はにっこりと輪廻に笑って(顔がないのだけど、笑ったのだということはなぜか理解できた)それから、「ばいばい」と言って、その空想の林檎は、輪廻の前からまるで煙のように消えてしまった。
「林檎」
はぁはぁ、と息を切らせて、立ち止まってしまった(もっと体力をつけておけばよかった)輪廻は、いつの間にか、大きな画面のあるビルの前に立っていた。そこは、輪廻の学校への通学路の途中にある場所だった。
周囲には輪廻と同じ制服を着ている同じ学校の生徒の姿も何人か見えた。
そこは、昔、『輪廻がビルの上から落っこちてきた女子高生の姿を目撃した、その現場、そのもの』の場所だった。
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