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この国では、(それはもう古い情報なのかもしれないけど)毎年三万人くらいの人がこうした事故にあうらしかった。(だから一日の事故の平均は約八十人くらいの計算になる。それを中等部のときに、輪廻は一人で調べたことがあった)
とくに都市部では、(しかも人口が集中している東京では)それはあまり珍しい光景とは言えないのかもしれない。
輪廻はその日、林檎のように胃の中のものを吐き出したりはしなかった。ただ、ぼんやりと、ずっと暗い部屋の中で、女子高生の落っこちてきた空のある、薄暗い天井を見つめていた。
ずっと、窓の外に降る雨の音が聞こえてきた。
その音を、輪廻は今でも、忘れることなく、きちんと正確に思い出すことができた。
プルルルー、プルルルー。
と、輪廻の家の電話が鳴った。
「……でなくていいの?」林檎が言った。
「うん。でなくていいの」優しい顔でそう言ってから、輪廻はにっこりと林檎にちょっとだけ悲しそうな顔で、笑った。
それから二人は時間も遅くなってきたので、そろそろ就寝することにした。(林檎はすごく眠そうな顔をしていた)
「寝る場所はどうする?」輪廻は聞いた。輪廻のベットは大きくて、林檎はソファーで寝なくても、輪廻のベットで、二人は一緒に眠ることができた。
「……一緒に寝てもいい?」
と、頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに顔をうつむかせて林檎は言った。
「うん。もちろん。いいよ」にっこりと笑って、輪廻は言った。
その言葉通りに、二人は輪廻の大きな白いベットの中で、二人で一緒に、『輪廻のお嬢様学校の制服姿のまま』眠りについた。
輪廻は林檎と一緒に(林檎のパジャマも自分の予備のものを用意して)パジャマに着替えをするつもりだったのだけど、林檎が「制服のままで寝たい」と言ったので、自分も林檎と同じようにすることにした。
二人は靴下とカーディガンを脱いで、制服のままで、ベットの中で眠りについた。
慣れない家出(たぶん)で疲れていたのか、輪廻のおごりでご飯を食べて、輪廻の家でお風呂に入った林檎は、輪廻のベットに潜り込むと、すぐに輪廻の隣で眠ってしまった。
それはそんなに気持ちよく眠れるのが羨ましいと思うくらいに、すごく気持ちの良さそうな寝顔だった。(久しぶりのベットなのだから、まあ当然といえば、当然だろう)
林檎はベットの中で丸くなった姿勢で眠っていた。そんな林檎の姿を見て、まるで拾ってきた猫みたいだ、と(林檎はもともと猫っぽい顔をしているけど)そんな失礼なことを輪廻は思って、闇の中で一人、くすっと微笑んだ。
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