「林檎は? 月に行きたいと思う?」

 輪廻は窓の外を見ながら、林檎にそうたずねる。

「私は、別に月には行きたくないかな」

 林檎は言う。

「どうして?」

 林檎を見て、輪廻は言う。

「だって、私の居場所は地球にも、月にも、きっと宇宙のどこにもないはずだから」

 にっこりと笑って林檎は言う。

「居場所がないなら、どこだって一緒だもん。なら、今のままでいい」

「……林檎はさ、寂しくなったりしないの?」

 輪廻は言う。

「しないよ。だって私は別にどこの世界だって、ちゃんと一人で生きていけるから」にっこりと笑って、林檎は言う。

「ごちそうさまでした」

 チョコレートケーキを食べ終わった林檎はそう言って、それから林檎は、「ごはんをおごってもらってありがとうございました」と、食事をおごってもらったお礼を輪廻に言った。

 輪廻と出会ったとき、林檎はお金というものを、まったく所持していなかった。


「ねえ、林檎」

「なに?」

 林檎は言う。

「林檎はどうして家出をしたの?」

 輪廻は林檎から、林檎が数日前から家出をしていて、どこにも行く場所がないという話を聞いていた。ここ数日、林檎は近所の公園でずっと寝泊りをしていたようだった。

「……まあ、やっぱり、いろいろあって」

 と、またにっこりと笑って林檎は言った。

「そう」

 輪廻は言った。

 それから輪廻はまた、真っ暗な夜の暗闇だけがある窓の外に目を向けた。

 そして輪廻はもう、金輪際、林檎が高校にいってないことや林檎の家出のことについて、林檎に尋ねることはやめようと思った。

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