「月の重力ってさ、地球の六分の一なんだって」

 林檎が店員さんがテーブルに持ってきてくれた追加注文をしたチョコレートケーキを食べているときに、テレビの画面を見ながら輪廻は言った。

 今、輪廻の見ているテレビの画面では、さっきまで映っていた現在の宇宙ロケットの映像ではなくて、大昔に月に行ったときの旧型の宇宙ロケットが月の表面に着陸をしているときのシーンの映像が、当時の音声と一緒に流れていた。

「ふーん。そうなんだ」

 とくに興味もなさそうな顔で、フォークでチョコレートケーキを食べながら林檎は言う。

「重力が軽いってさ、すごく羨ましいよね」

「うーん。そうかな?」

 少し上を見ながら、林檎は言う。

「地球の重たい重力の上を歩くのってさ、……なんだか、しんどくない?」

 林檎を見ながら輪廻は言う。

「でもさ、月に行っても、しんどいものはしんどいよ。きっと。重力が少しくらい軽くなったからって言ってもさ、それで生きることが楽になるわけじゃないでしょ? 重力が軽くなる代わりに、空気だってないわけだしさ」

「でも、体は軽くなるんでしょ? それってさ、すごく楽なことじゃない?」輪廻は言う。

「うーん。そうかな?」

 椅子の上であぐらをかきながら、腕を組んで林檎は言う。

「……生きるのってさ、しんどくない?」

 林檎を見ながら、輪廻は言う。

「まあ、確かに。それは同意する」

 うんうん、とうなずいて林檎は言う。

 それから林檎は輪廻を見て、「輪廻は月に行きたいの?」と、チョコレートケーキの最後のかけらを口の中に放り込みながら言った。

「どちらかといえば、行きたい」

 輪廻は言う。

「そうなんだ」

 林檎は言う。

 二人はまた、少しだけ沈黙する。

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