scene#018 「トゥルーエンディングは選ばない」
一か月後、部室にはいつもの光景が戻っていた。
桃と神郷は相変わらず女子トークに華を咲かせ、華崎は部室では自分を取り繕うのをやめてゲームをしている。そして、今俺は霜城の書いた小説の教授をしていた。
「うーん、ヒロインを可愛く見せたいのは分かるんだがどうして服が毎回破けるんだよ」
「だ、だってエッチな方が読者は喜ぶじゃない。――って何言わせてるの!」
今度はちゃんと足にヒット。これくらいなら許してやってもいい、むしろあの時に比べたら可愛いくらいだ。
「ともかくお前はお前らしく好きな作品を書けばいいんだよ、まだデビューもしてないんだし読者のことなんか気にすんな」
「そうねー、読者なんて第三者なわけだし気にしてても仕方ないわよ」
ポータブルゲームをしながら華崎が言葉を挟む。
「お前は一体どの目線で言ってるんだよ」
「ん? 華崎ミカエラ様視点。ていうのは冗談で、第三者目線よ。第三者なんて正直その物事が面白いか面白くないかしか見ていないもの」
「それは、経験談か?」
「君のね」
一か月経って、俺の華崎ミカエラ脅迫騒動は完全にとは言えまいが鎮火した。まぁ結局、他人なんてその場の面白さでしか人を見てないのだ、今回でよく分かった。
「ふふっ、なんだかミカエラちゃんすっかりらしくなったね」
それを聞いていたのか桃が口を挟む。
「そうですか? 元々こんなんだったような気がしますけど」
冗談っぽく笑って話す神郷。
「まぁ、私も少しは自分らしくいようって思いましたからね」
そう、華崎は見る人が見れば変わったと思う。
教室では徐々にだがこの素に移行している。逆に友達が減るかと思ったが、このフランクな対応と今までのイメージのせいか気軽にクラスメイト達が話しかけるようになった。
まぁ、俺の場合、教室で話すのは伊東、神郷、時々霜城くらいだ。
ちなみに華崎とは教室では話すことはない。もちろん脅迫騒動の件もあるが、俺に華崎が気を遣ってくれているらしかった。
「藤沢くん、スマホ」
霜城に指摘され、机に置いていたスマホを見るとバイブしている。表示されている文字を見るとあの大手美少女ゲーム会社だった。
「悪い、ちょっと外す」
そう言って部室を出る。廊下は人はいなく、うるさくならないのでそのまま電話をとった。
『――もしもし、お世話になっております。ビジュアルダーツの尾野です』
「あぁ、どうも……」
今回のプロジェクト尾野さんには本当に迷惑をかけた。なんて言ったって、発売ギリギリになって立華アリスルートを改稿したいと頼み込んだからな。
「その、すみませんでした。無理なお願いをしてしまって」
『ほんとですよー、そのせいで開発部の方は大変だったんですからね』
そりゃそうだ、勝手にルートが変更されればボイスも取り直しだし、演出も変わる。その人たちに迷惑が掛かってしまったと思うと本当に申し訳ない。
『でもそのおかげか、アリスルートは大好評でしたよ。私もやってみましたが、すごく面白かったです』
「あ、ありがとうございます」
『まぁ、アリスの人気は反比例してヒロインの中で最下位なんですけどね』
実はアリスルートの改稿した部分だが、華崎と俺のあの事件を一部を変えてそのままシナリオに盛り込んだ。
そして世間の評価だが、あの事件の全てを明らかにした為、現実とは反対にアリスが叩かれる羽目に。まぁ現実では主人公の立場の俺が叩かれているわけだし、安パイってことで。
そして、アリスにギャルゲー好き設定を無理矢理押し込んだのは言うまでもない。
『あっ、すみません話が逸れましたね。是非次回のプロジェクトにも参加してもらおうと考えてご連絡させていただきました』
「い、いいんですか?」
『えぇ、改稿はギリギリでしたけどシナリオは最高のものだったので。それにうちのスタッフはギリギリだと余計燃えるみたいで』
きっとそれは次はギリギリはやめてほしいという皮肉でいってるんだろうなぁ。よし、次回は絶対一か月前以上に絶対に出稿しよう。
『また直ぐに、新しいプロジェクトの設定資料の方を送らせていただこうと思っていますので確認よろしくお願いします。では、今後ともよろしくお願いします』
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
相手が電話を切るのを待ってスマホをポケットに入れた。直ぐには部室に戻らず、窓から青空を見上げる。
「――ちゃんと全部書けば神シナリオとか呼ばれてたかもな」
シナリオとあの事件を重ねて書いたが、一つだけ大事な部分で省略したシーンがある。
それは俺は華崎を脅迫したあの動画のシチュエーションだ。
シナリオの方ではたまたま主人公のパソコンにバックアップが残っていたが現実は違っている。
実は削除したのは本当で――真の動画はもうこの世には存在しない。
じゃあどうやって彼女を騙したのかというと、これもとあるママンととある部活の仲間たちに協力してもらい、似たようなシチュエーションで放課後撮影してもらった。というより、部室での華崎の説得と同時進行でやってた為、間に合わないかとヒヤヒヤしたもんだぜ。
そして、見事涙で滲んだ華崎の目にはそれが本人ではないと認識することなく騙すことに成功した。
まぁ、これは華崎には一生黙っておこう。また変な契約をさせられるかもしれないし。
「――部室に戻るか」
感傷にふけるのに飽き、部室へと足を向ける。
「楽しみだな」
もう設定資料集のデータは部室にあるパソコンに送られているだろう。次はどんなヒロインのシナリオを書くことができるのだろうか。
ここ最近色んな事があった。
学園一の美少女の本性を知り契約をさせられ、はたまた色んな人間を巻き込んで部活なんかも作ったりした。
一度は壊れかけた場所、それでも彼女たちは待っていてくれたのだ。
それはまるで、俺が求めていた青春じゃないかと思う。
――部室をゆっくりと開ける。
その顔つきはみんなこれから俺が言うことを分かってるようで、こちらに一斉に注目した。
「新しい仕事だ――みんな協力してくれ」
こうして、藤沢飛翔と、四人のヒロインたちのシナリオがまた書かれようとしていたのだった――
女の子の隣でギャルゲーやってもいいですか? 神喜 @shinki8888
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