scene#016 「結末を間違えたクライマックスシーン」
はっきり言って今日は最悪の一日だった。俺と華崎は上野動物園のパンダかってくらい注目されていたし、なにより面白がって話しかけてくるやつは本当に面白くない。
ただやっぱり華崎の場合、自分が作り上げてきたものもあるのだろう。それが目の前で分かるくらい崩れている。
そうして傷ついていく彼女をもう飛翔はもう見たくない。
なので、昼休みある場所に彼女を呼び出し、俺はそこに向かっていた。
因みにその日は、桃や神郷にも事情を説明し、その場所に来ないようにお願いしてある。
そして、その場所――部室の前に立ち、中に彼女がいる事を確認した。
ゆっくりと部室のドアを開ける。
左側のパイプ椅子にはもう既に華崎が座っており、当然他に誰もいない。
「悪いな、待たせたか」
「大丈夫よ」
返事をする彼女はいつものように覇気がない。
飛翔は華崎の向かいに腰を下ろした。
「で、二人きりで話って何よ。また誤解されるわよ」
「そうだな。だから、手短に話そうと思う」
そう言って真っすぐと華崎を見つめる。しかし、彼女は俯いたままこちらを見ようとはしない。
「この状況をどうにかする方法はある、それは同時に華崎の信頼を取り戻すこともできる、やるか?」
「なにそれ、冗談でしょ」
ようやく彼女が顔を上げる。
「冗談じゃない。本当だ」
「何それ、言ってみなさいよ」
「俺を、一か月停学にしろ」
「はぁ、そんなんで何が変わるのよ」
「人の噂も七十五日って言うだろ、あれ大体人は噂の対象がいなくなれば一、二週間くらいで忘れるんだよ。第一他人なんて生き物そもそも皆興味ないからな」
「それで、私の力で停学にしろと?」
頷く。学園長の孫の権限ならきっとできるはずだ。
「できないことはないけど……、変態はそれでいいの?」
その返事を聞いて、ようやくいつもの彼女らしくなってきた。
「おう、ちょうど仕事も溜まってるし、一か月あれば十分仕事が出来るからな」
「ふーん、わかった。じゃあ悪いけどそういうことでいいのね」
「あぁ、よろしく――」
飛翔は席を立ち上ろうとする――その時だった。
「――やっぱりダメ!」
彼女は強く腕を掴まれる。
「どうしたんだよ。やっぱりダメって」
「なんか君、変なこと考えてるでしょ」
「まぁ、そりゃ物書きだからな」
「そうじゃなくて、おかしいもの。そんな簡単に問題が解決するわけ――」
「だから、大丈夫だって華崎が心配することじゃない」
「何その言い方、考えてる事話すまで私絶対この手話さないから」
華崎のがっちりと飛翔の腕を掴んでおり、逃げることができない。飛翔は仕方なく、再び椅子に座りなおした。
「――話せば、納得してくれるんだな?」
「えぇ、内容によるけど」
きっと彼女は納得してくれないだろう。そう思い、こちらには切り札を用意してある。
「俺が停学した後、適当な噂を流すんだよ、例えばそう華崎ミカエラは藤沢飛翔に弱みを握られていて、無理矢理告白させられたとかな」
「そうすれば皆がそれを信じるとでも?」
「あぁ、状況が状況だしな。それに今回の噂が広がったスピードが何よりの証拠だ」
「確かにそうかもしれないけど……次に君が学校に来たとき、君の居場所は無くなってる」
別に学校に居場所なんて元々ない、最近出来たばかりだがそれともここ一か月はお別れだ。
「それも、みんな忘れるだろ。噂だしな」
そう上手く冗談を言ってごまかす。多分、その噂に関しては忘れることはない。 停学という事実が残れば残りの高校生生活に絶対に付きまとうだろう。多分次、学校に来る頃には犯罪者扱いだ。
「納得してくれたか?」
「するわけないに決まってるでしょ」
だろうな、多分自分が逆の立場でも絶対に納得しない。
「そんなやり方、絶対に私は認めないから」
彼女は俯き涙目になる。
「せっかく……せっかく学校に居場所ができて、これから色々始まろうとしてるのに……」
「そうだな」
華崎も同じ気持ちだった。部活を居場所と考えてくれて。だからこそ、ここで引くわけにはいかない。例え、彼女を傷つけても。
「私たち、いい友達になれる……そう思ってたのに……」
「それなんだがな、どうやら俺たちはいい友達どころか――友達にはなれないらしい」
彼女が顔を上げたと同時にスマホを見せた。
「どうして――どうしてこれが残ってるのよ」
スマホに写っていたのは、華崎が教室でクラスメイトの悪口を言っている動画。飛翔と華崎が契約を交わすきっかけとなったあの動画だった。
「俺のパソコンのフォルダにたまたま残ってたんだ。自分としては消したつもりだったんだけど、バックアップが残ってたらしい」
「それを……私に見せてどうしろっていうのよ」
答えは簡単――俺たちは絶交だ。
「この動画――拡散されたくなかったら俺を停学にしろ、これは契約だ」
やり方が最低なのは分かってる。もうきっと彼女は飛翔の事を友達だとは呼んでくれないだろう。
でも、これで彼女が救われるならそれでいい、そう思えた。
これも友達の為ってやつなのだろうか。
「バカ……バカ……」
彼女はその場に泣き崩れた。もう、その時点で答えが出たと確信する。
「私ね、君のことずっと前から知ってたの」
「それは、どういう事だ?」
飛翔は、華崎とあの契約以前から面識があった記憶はない。
「――カクめいじん、私実は君の書いた作品全部やってたから、それがある日突然隣の席の人だって知って――正直嬉しかった」
ここでようやく辻褄があった。
「だから、お前協力するって言ったのか」
「うん、でもね。私本当はキスどころか恋愛経験もないし、迷惑かけてばっかりだった」
それは何となくだが気が付いていた。だてにこっちだって人間を書いている訳ではない。
「ねぇ、私と友達になって楽しかった?」
「あぁ、楽しかったよ。お前は俺に本当の学生らしい事、居場所まで作ってくれた。本当に本当に感謝しかない」
「そう、私も君と友達になれて本当によかった。私も、君と一緒で初めて心休まる場所ができて、楽しかったから……」
「――そうか」
だからこそ、この華崎ミカエラという存在を守らないといけないと強く思う。そう、俺たちはどこまでに似ていなくて、どこまでも似ているのだから。
「お前は華崎ミカエラ――学園中の憧れの「リア王」なんだよ。だから、もっと自分を大切にしろ」
そういって彼女に向けて手を伸ばす。
そしてゆっくりと頷きながら彼女はその手を取った。
その瞬間――藤沢飛翔と華崎ミカエラは友達ではなくなった。
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