scene#015 「決意と犠牲」

 夕方、桃が俺の部屋にやってくる。入ってすぐに桃はスマホをこちらに向けた。


「つばさちゃん、これどういう事」


 どうやらもう動画は広まっているらしい。しかしまぁ、予想通りの最悪の結果。SNSってやつは本当に怖いな。

 桃にその動画の内容の経緯を一通り説明した。


「――ってことなんだ、ってどうした」


 説明し終わるとすぐに桃が抱き着いてくる。その表情はこちらから見えない。


「つばさちゃん……、前にも言ったよね。もう変なことはしないって」

「……そうだな」

「うん、どうしていつもいつも約束守ってくれないの?」


 桃の声は涙声、きっと泣いているんだろうか。


「ごめん」

「ごめんじゃないよ、いつも私に心配かけさせて……」


 桃の腕が強くなり体が更に密着する。いつもなら冗談を考えているが、右肩が少し濡れた状態の今は考えられなかった。


「ねぇ、つばさちゃん私が今なんで泣いてるか分かる?」

「あぁ」


 桃は分かっている、これから俺がしようとする事を。


「私はね、もうつばさちゃんに傷ついてほしくないんだよ。正直、華崎さんが学園でこれからどう思われようが関係ない。私はつばさちゃんが大切なの」


 そう言ってくれるのはきっと桃だけだ。そして、その桃を俺はこれから傷つけるのだ。


「ねぇ、やっぱりつばさちゃんはこういう時誰かを守るんだよね。自分を犠牲にして」

「……悪いな」

「ほんとだよ、でも……だからこそつばさちゃんはつばさちゃんなんだよね」


 何か決意したのか、桃は体を離す。そして彼女の顔がようやく明らかになり、泣いていることが確認できた。


「――がんばれ、つばさちゃん!」


 無理にそう笑って送り出してくれる桃を見て胸が痛くなる。

 そして、俺はようやく覚悟が決まった。

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