scene#012 「本当のイベント」
なんだかんだでキャンプファイヤー(藤沢飛翔断罪祭)は一人を除いて盛り上がった。夜ももう遅いので残骸処理に関してはこの後、俺と大上がやることに。後で絶対問い詰めていやる。
「帰る方向が違うのは、華崎だけか。よし、私は後の三人を送ってくから、藤沢は華崎送ってってやれ」
大上はどうやら今日教師らしく生徒を送ってくれるらしい。ということで、三人とはアパートの目の前で別れ、二人並んで歩き出す。
「今日は協力してくれありがとな、色々付き合ってもらって」
「べ、別にいいわよ。シナリオのためだし……」
そして彼女は下を向くと何か小声で話す。
「それに、私も楽しかったし」
「なんか言ったか?」
「べ、別に。面白いシナリオができればいいなって思っただけよ」
「――……それなんだけどな」
飛翔にはずっと疑問に思っていることがあった。今二人きりなのでちょうどいいだろう。
「なんで見ず知らずのライターのためにここまでやってくれるんだよ。そもそも華崎にとってシナリオなんてどうでもいいことだろ」
「それは、その、契約のためよ。今すぐ君が、あの動画を消してくれさえすれば今すぐにでも……」
「あの動画だけどな、消したよ」
「――えっ」
「持ってても仕方ないし、それにあっても誰も得しないだろ。まぁ、俺は少し参考にしてもらったけどな」
「そ、そう。じゃあもう……」
「あぁ、もうお前は縛られる必要はないんだ。自由に学園生活を過ごせる」
そう言うと急に俯き、華崎は黙り込んでしまう。
「今まで本当にありがとな、色々協力してくれて、部活も作ってくれて華崎には本当に感謝してる。だから――」
これは本心で、今の自分の気持ち。だからそれを彼女にぶつけた。
「――これからは本当の意味で俺と友達になってほしい。契約とかそういうのじゃなくて、対等の立場でお前と向き合いたい」
これが俺自身の想いだった。
彼女がいなければ、部活を創って楽しいだなんて思うこともなかった。
神郷や、霜城との距離だって近くなることはなかった。
だから自分なりに考えて、契約とかそういうのじゃなくて、友達として華崎と向き合いたい。
今日、桃が言っていた似たもの同士、それはきっと間違ってない。そんな似た者同士の俺たちならきっといい友達になれるそんな気がしたのだ。
でも、それはあくまで俺だけの気持ちなんだ。
目の前にいる華崎はどう思っているのだろうか。
「……私は」
ようやく彼女が顔を上げる。
「私は、君とは対等な立場に立ちたくない」
そっか、そうだよな。だって、もともとこれは俺の願望みたいなものだし。
「でも――」
その瞬間、風が彼女の髪を仰ぐ。
「――それ以上の関係に行きたいと今は本気で思ってる」
対等ではなくそれ以上の関係、変な意味ではない。きっとそれは――
「なんて、冗談よ冗談。今のアリスの告白シーンよくできてると思わなかった?」
「あっ、あぁ……。そうだな」
そういえばアリスの告白シーンで夜にこういう展開があったのを思い出した。
なんだろう、俺はかわらかわれたのか? すごく恥ずかしくなってくる。
その後、シナリオの話をしながら少し歩くと、日本料亭みたいな家が姿を現す。名札を見ると、華崎と書かれていた。
「ここでいいわ」
「おう、じゃあな」
そういって彼女に背中を向ける。
「ちょっと待って――」
呼び止められ、振り向くと彼女はまだそこにいた。
「さっきの話だけど、私も……あんたとは対等な友達でいたい……とは思ってなくないかも」
「それって――」
「じゃあ、おやすみ!」
そういうと逃げ込むように彼女は家に入って行ってしまった。
彼女と別れる前の最後の言葉、あれは了承と受け取ってもいいのだろうか。
「ま、これからもよろしくって事で」
正確な答えは聞けていないが、断られていない以上認めてくれたって事だろう。
夜風に当たったにもかかわらず何故か暖かくなった体に疑問を感じながら、飛翔は帰路に就く。
「あれ、もう帰ってたんですね」
マシーン銀河まで戻ってくると、そこには大上がすでに戻ってきており、トングで残骸をビニール袋に入れていた。
「あぁ、途中でタクシー拾って、各自宅まで送ってもらうよう頼んだからな」
「ちゃんと送れよ……」
「金はちゃんと出したから問題ない、ていうかほれ」
ほんとこの人は相変わらずだ。大上からトングとビニール袋を受け取り、一緒に掃除を始める。
「にしても、今日はほんと散々でしたよ、誰かさんのせいで」
残骸を拾いながらその誰かさんを睨み付ける。
「ふむ、確かに健全な青少年の教科書であるエロを捨てるように誘導した誰かさんは許されるべきでないな」
当の本人は全く悪いと思っていないようで、何気ない顔でゴミ(宝だったもの)を拾っている。
「でも、そうだなぁ、私は正直嬉しいぞ」
「人の秘密を暴くのがですか?」
「違う、お前の色々な表情が見れてだ。それこそ、藤沢家にいる時や入学当初じゃ絶対に見れなかったからな」
実は、大上は俺を仮の自由にしてくれた人物でもある。
大上は元々、俺が中学生だった時の家庭教師だ。実際に本人の能力は高く、そこが評価されたため藤沢家に招き入れられた。
そして俺が逃亡し捕まった後、藤沢家に華崎学園に入学するように促したのは紛れもなく彼女である。まぁ、藤沢家からの監視役として今は教師をやっているわけだが。
なにより、シナリオというものを俺に教えてくれたのは大上で、彼女がいなければこうして物語を書いていることはありえなかった。
そういうわけで、この人には感謝してもしきれない恩があるわけなのだが……。
「俺の表情、そんな変わりましたか?」
「あぁ、今だってそうだ、なんか知らんがずっとニヤニヤしてるぞ」
そう言われ、思わず口元を触ってしまう。うーん、自分じゃわからないが、長い付き合いの人間がそう言うならそうらしい。
「やっとお前をこの学校に入れてよかったと思える日が来て、よかったよ」
「なんすか、それ」
「さぁ、それはお前がよく分かってるんじゃないのか?」
「どうでしょうね」
わざと視線を合わせずごみを拾い続ける。
「――藤沢」
大上は手を止め、こちらに向き直った。
「お前はこれから大変なことが色々あると思う。だが――」
大上はあの時、俺にシナリオを教えてくれた時と同じ表情を向けた。
「――自分の居場所は絶対に自分で守れ」
「説教、ですか」
「そうだな、教師らしいことが言いたくなっただけだ」
「そう、ですか」
「あぁ、そうだ」
それからはたわいもないような、どうでもいい話をしながら掃除をした。
あの時、大上が言った言葉。
自分の居場所は絶対に自分で守れ、と。
その言葉の意味なんてとっくに分かっている。だって俺にはもうその居場所ができているのだから。
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